はじめに:私たちは、地球という「患者」を、診ている
これまで、私たちは、「公衆衛生(Public Health)」という、人間の、健康に、焦点を当てた、視点から、気候変動の、影響を、考えてきました。
しかし、近年、それよりも、さらに、視野を広げ、「人間の健康」と、私たちが、依存する「地球という、自然システムの、健康」を、一つの、統合された、システムとして、捉え、その、相互依存関係を、探求しよう、という、新しい学問分野が、急速に、発展しています。
それが、「プラネタリーヘルス(Planetary Health / 地球の健康)」です。
今回は、この、壮大で、包括的な、新しい視点が、私たちに、何を、教えてくれるのかを、探ります。
プラネタリーヘルスとは?
プラネタリーヘルスは、ロックフェラー財団と、ランセット誌が、主導して、提唱した、比較的新しい、学術領域です。
その、中心的な、メッセージは、「人類の、文明の、進歩、特に、近年の、急激な、経済成長が、皮肉にも、地球の、自然システム(気候、生物多様性、水循環など)を、大規模に、破壊・攪乱し、その結果、巡り巡って、私たち、人類自身の、健康と、幸福を、脅かしている」という、認識です。
つまり、地球という「患者」が、病気になれば、その、地球に、全面的に、依存して、生きている、私たち人間もまた、健康では、いられない、ということです。
人間の健康と、地球の健康は、分かちがたく、結びついているのです。
プラネタリーヘルスが、照らし出す、健康への脅威
プラネタリーヘルスの、視点に立つと、気候変動が、私たちの健康に、与える、影響の、全体像が、より、クリアに、見えてきます。
- 感染症の、拡大:温暖化によって、蚊などが、媒介する、感染症(デング熱、マラリアなど)の、発生地域が、拡大します。
また、森林破壊によって、野生動物と、人間の、距離が、近づくことで、未知の、ウイルスとの、接触機会が、増え、新しい、パンデミックの、リスクが、高まります。
- 食料システムの、危機:異常気象による、不作は、食料不足と、栄養失調を、引き起こします。
特に、最も、貧しい、コミュニティの、子供たちの、健全な発育を、深刻に、脅かします。
- メンタルヘルスへの、影響:自然災害による、トラウマ(PTSD)や、故郷を、失うことによる、喪失感。
そして、未来への、希望が、見えないことから、生じる「気候不安」。
気候変動は、私たちの、心の健康にも、深刻な、影を、落とします。
- 大気汚染と、水質汚染:化石燃料の、燃焼は、呼吸器疾患を、引き起こし、気候変動による、水循環の、変化は、安全な、飲料水への、アクセスを、脅かします。
求められる「グレート・トランジション(大転換)」
プラネタリーヘルスは、単に、問題を、指摘するだけでなく、その、解決策の、方向性も、示しています。
それは、対症療法的な、医療の、提供だけでは、不十分であり、問題の、根本原因である、私たちの、社会経済システムの、あり方そのものを、変革する「グレート・トランジション(大転換)」が、必要だ、ということです。
- エネルギーシステムの、転換