「インセッティング」とは?オフセットとの違いと、サプライチェーン改革の本気度

はじめに:「外」で埋め合わせるか、「内」で生み出すか

これまで、私たちは、企業が、自社のCO2排出量を、埋め合わせる手段として、「カーボン・オフセッティング(Offsetting)」、つまり、自社の事業活動とは、直接関係のない、「外部」のCO2削減プロジェクトの、クレジットを、購入する、という方法を、学んできました。

しかし、近年、これとは、異なるアプローチが、先進的な企業の間で、注目され始めています。

それが、「カーボン・インセッティング(Insetting)」です。

これは、一言でいうと、自社の「サプライチェーン(供給網)」の、まさに「内部」で、CO2削減・吸収プロジェクトを、自ら、創出・支援する、という、より、踏み込んだ、取り組みです。

今回は、この「インセッティング」の、考え方と、それが、企業の、脱炭素化への「本気度」を、測る上で、なぜ、重要な指標となるのかを、解説します。

オフセッティングと、インセッティングの、決定的な違い

両者の違いを、コーヒー会社を例に、考えてみましょう。

オフセッティングの場合

コーヒー会社は、自社の、焙煎工場や、輸送で、排出するCO2を、計算します。

そして、その排出量を、埋め合わせるために、市場で、全く関係のない、他の国の「森林保護」プロジェクトの、カーボンクレジットを、購入します。

これは、有効な気候変動対策ですが、コーヒー会社の、本業である「コーヒー豆の生産」そのものの、持続可能性とは、直接、関係がありません。

インセッティングの場合

コーヒー会社は、自社が、コーヒー豆を、調達している、南米の契約農家に対して、直接、投資や、技術支援を行います。

例えば、コーヒーの木と、他の樹木を、一緒に育てる「アグロフォレストリー」の、農法を、導入してもらいます。

これにより、農地の土壌が、豊かになり、CO2を、より多く、吸収できるようになります。

この、自社のサプライチェーン内で、追加的に、実現したCO2吸収量を、測定・認証し、自社の排出量と、相殺するのです。

インセッティングの、メリット

インセッティングは、単なるCO2削減に、留まらない、多くの、戦略的なメリットを、企業に、もたらします。

  • サプライチェーンの、強靭化(レジリエンス向上):気候変動は、干ばつや、洪水などを、引き起こし、企業の、サプライチェーンを、脅かします。

    インセッティングは、農家の、気候変動への「適応能力」を高め、コーヒー豆の、安定的で、長期的な、調達を、可能にします。

    これは、企業の、事業継続性を、高める、本質的な「リスク管理」です。

  • 製品の、付加価値向上:自社製品(コーヒー)の、まさに、その「原料」が、生まれる場所で、環境再生に、貢献している。

    その、ユニークで、説得力のあるストーリーは、「サステナブルなコーヒー」として、製品の、強力なブランド価値となり、競合との、差別化に、繋がります。

  • 地域コミュニティとの、関係強化:農家との、長期的なパートナーシップを、築くことで、生産者の生活の質を、向上させ、地域コミュニティとの、深い信頼関係を、育むことができます。

なぜ、本気度の「指標」となるのか?

オフセッティングが、市場で、クレジットを「買う」だけの、比較的、容易な行為であるのに対し、インセッティングは、自社の、サプライチェーンの、奥深くまで、入り込み、現地のパートナーと、長期的な関係を、築きながら、プロジェクトを、自ら「創る」という、非常に、手間と、コストのかかる、複雑な活動です。

だからこそ、企業が、インセッティングに、取り組んでいる、ということは、その企業が、気候変動問題を、単なる「CSR(企業の社会的責任)」や、評判対策としてではなく、自社の「事業戦略」の、根幹に関わる、重要な経営課題として、捉えていることの、何よりの証拠、と言えるのです。

まとめ:「自分たちの問題」として、引き受ける覚悟

オフセッティングが、「自分の家で、出したゴミの、処理費用を、きちんと払う」という行為だとすれば、インセッティングは、「そもそも、ゴミが出ないような、生活の仕組みを、自分の家の中から、作り上げる」という、行為に、例えられるかもしれません。

もちろん、両者は、対立するものではなく、補完的に、活用されるべきものです。…