【企業の適応戦略】「座礁資産」とは?あなたの会社の資産は、明日、ゴミになるかもしれない

はじめに:価値がある、と信じていたものが、突然、無価値になる、という悪夢

「座礁資産(Stranded Assets)」。

この、少し、不穏な響きを持つ、言葉が、今、気候変動の、文脈で、企業経営者や、投資家の間で、最も、恐れられる、リスクの一つとして、認識されています。

それは、一言でいうと、予期せぬ、市場環境や、社会制度の、変化によって、これまで「資産」として、バランスシートに、計上されていたものが、その価値を、大幅に、失い、時には、無価値な「負債」へと、転落してしまう、という、悪夢のような、事態を、指します。

そして、脱炭素社会への、移行は、まさに、この、座礁資産を、大量に、生み出す、巨大な、構造変化なのです。

今回は、この、座礁資産の、リスクについて、具体例と共に、解説します。

なぜ「座礁資産」は、生まれるのか?

気候変動関連の、座礁資産は、主に、低炭素社会への「移行リスク」によって、引き起こされます。

  • 市場の変化:消費者の、嗜好が、変化し、環境負荷の高い、製品が、売れなくなる。

    (例:燃費の悪い、大型ガソリン車)

  • 技術の変化:より、安価で、効率的な、クリーン技術が、登場し、既存の、古い技術が、陳腐化する。

    (例:再生可能エネルギーの、コスト低下による、石炭火力発電の、競争力低下)

  • 政策・規制の変化:政府が、より、厳しい、環境規制や、カーボンプライシングを、導入し、CO2排出量の多い、事業活動の、コストが、急激に、上昇する。

こうした、変化によって、これまで、利益を、生み出すと、期待されていた、資産が、その、収益力を、失い、「座礁」してしまうのです。

座礁資産と、なる可能性のある、具体的な資産

1. 化石燃料の「埋蔵量」

最も、代表的な、座礁資産の、候補です。

石油、ガス、石炭会社は、自社が、権利を持つ、地下の「確認埋蔵量」を、巨大な資産として、計上しています。

しかし、パリ協定の、1.5℃目標を、達成するためには、現在、確認されている、世界の、化石燃料埋蔵量の、うち、実に、3分の2以上は、燃焼させることなく、地下に、残しておかなければならない、と、言われています。

つまり、これらの「資産」は、将来、決して、掘り出すことのできない、事実上の「埋没資産」と、なる、可能性が、非常に高いのです。

2. 化石燃料を、利用する「インフラ」

  • 石炭火力発電所:厳しい、排出規制や、再エネとの、コスト競争によって、その、採算性は、急速に、悪化しています。

    まだ、建設から、年数が、浅い、発電所であっても、その、寿命を、全うする前に、閉鎖を、余儀なくされる、可能性があります。

  • 石油・ガス関連インフラ:パイプライン、製油所、LNG基地なども、世界の、脱化石燃料化が、進めば、その、利用価値が、低下していきます。

3. エネルギー効率の低い「資産」

  • 燃費の悪い、自動車や、航空機:ガソリン価格の、高騰や、消費者からの、敬遠によって、その、中古市場での、価値が、下落します。

【企業の適応戦略】「気候変動ロビイング」の、光と影。あなたの会社は、どちら側?

はじめに:水面下で、繰り広げられる、もう一つの「戦い」

企業の、気候変動対策について、語られるとき、私たちは、つい、その、公に、発表される、サステナビリティ報告や、ネットゼロ宣言といった「表の顔」に、注目しがちです。

しかし、その、水面下では、企業の、真の「本音」が、現れる、もう一つの、重要な「戦場」が、あります。

それが、政府の、環境政策の、決定プロセスに、影響を、与えるための、「ロビイング(ロビー活動)」です。

企業の、ロビイング活動は、気候変動対策を、加速させる「光」の、力にも、なれば、それを、妨害し、骨抜きにする「影」の、力にも、なり得ます。

今回は、この、企業の、政治への、働きかけの、実態と、私たち、投資家が、その「言行不一致」を、どう、見抜くべきかを、解説します。

気候変動ロビイングの「光」と「影」

光:ポジティブ・ロビイング

これは、企業が、自社の、利益のためだけでなく、社会全体の、脱炭素化を、加速させるために、政府に対して、より、野心的な、気候変動政策の、導入を、働きかける、ポジティブな、活動です。

  • 活動の例

    ・再生可能エネルギー関連の、企業が、業界団体を、通じて、政府に、より、高い、再エネ導入目標や、カーボンプライシングの、導入を、求める。

    ・先進的な、グローバル企業が、連合(アライアンス)を、組み、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などの、国際交渉の場で、各国政府に、より、大胆な、目標設定を、促す。

  • 動機:自社の、クリーンな、製品や、サービスが、より、競争力を、持つような、公平な「ゲームのルール」を、政府に、作ってもらいたい、という、経済合理的な、動機と、純粋な、社会貢献の、意識が、結びついています。

影:ネガティブ・ロビイング

これが、より、問題となる、側面です。

企業が、表向きは、気候変動対策に、賛成する、ポーズを、取りながら、その、裏では、自社の、短期的な、利益を、守るために、気候変動対策を、遅らせ、弱体化させるような、ロビー活動を、行うことです。

  • 活動の例

    ・化石燃料業界や、排出量の多い、産業の、業界団体が、多額の、政治献金を、行い、炭素税の、導入に、反対したり、排出規制の、基準を、緩めるように、圧力を、かけたりする。

    ・企業の、法務部門が、新しい、環境規制の、法案の「抜け穴」を、探したり、その、施行を、遅らせるための、法的な、異議申し立てを、行ったりする。

  • 問題点:こうした、ネガティブ・ロビイングは、企業の「公的な、発言(サステナビリティ報告など)」と「実際の、政治行動」との間に、著しい「言行不一致」を、生み出し、その企業の、信頼性を、根底から、揺るがします。

投資家は、どう「言行不一致」を、見抜くか?

企業の、ロビー活動は、多くの場合、水面下で、行われるため、外部から、その、実態を、正確に、把握することは、容易では、ありません。

しかし、近年、企業の、政治活動の、透明性を、評価・格付けする、専門の、非営利団体(例:InfluenceMap)などが、登場し、投資家が、利用できる、情報も、増えてきました。

投資家として、企業の、真の姿勢を、見抜くためには、以下の、視点が、重要になります。

  1. 業界団体への、関与:その企業が、加盟している「業界団体」が、どのような、ロビー活動を、行っているかを、チェックします。

    たとえ、個別の企業が、ポジティブな、発言を、していても、その企業が、多額の、会費を、払っている、業界団体が、ネガティブ・ロビイングを、行っているのであれば、その企業もまた、間接的に、その活動を、支持している、と見なされます。

  2. 政治献金の、透明性:その企業が、どの、政党や、政治家に、献金を、行っているか。

    その、政治家が、気候変動に対して、どのような、スタンスを、取っているか。

  3. TCFD報告などでの、情報開示:先進的な企業は、TCFD提言に、沿った、情報開示の中で、自社の、気候関連の、ロビー活動に関する、方針や、ガバナンス体制について、自主的に、開示し始めています。

【未来の保険】「パラメトリック保険」は、気候変動の、災害リスクを、どう、変えるか?

はじめに:災害の「後」では、もう、遅い

台風、洪水、干ばつ…。

気候変動によって、激甚化する、自然災害は、私たちの、生活や、事業に、壊滅的な、ダメージを、与えます。

従来の、損害保険は、災害が「発生した後」に、実際の、損害額を、調査・査定し、それに基づいて、保険金が、支払われる、という、仕組みです。

しかし、この方法では、保険金が、支払われるまでに、数ヶ月という、長い時間が、かかることも、少なくなく、被災者の、迅速な、生活再建や、事業復旧の、大きな、足かせと、なっていました。

この、課題を、解決するための、新しい、保険の形として、今、注目を、集めているのが、「パラメトリック保険(Parametric Insurance)」です。

今回は、この、未来の、災害保険の、仕組みについて、解説します。

パラメトリック保険とは?

パラメトリック保険は、従来の、損害保険とは、全く、異なる、発想に、基づいています。

それは、実際の「損害額」に、基づくのではなく、あらかじめ、定めておいた、客観的な「パラメータ(指標)」が、特定の、閾値(いきち)を、超えた場合に、契約で、決められた、一定額の、保険金を、迅速に、支払う、という、仕組みです。

その、仕組み

  1. パラメータと、支払条件の、設定:保険契約を結ぶ際に、トリガー(引き金)となる、客観的な、物理的パラメータと、その、支払条件を、具体的に、設定します。

    例(台風の場合):台風の「最大風速」が、秒速〇〇メートルを、超えた場合、あるいは、「中心気圧」が、〇〇ヘクトパスカルを、下回った場合に、保険金1,000万円を、支払う。

    例(干ばつの場合):特定の、観測地点での「降水量」が、3ヶ月間、連続で、〇〇ミリを、下回った場合に、保険金500万円を、支払う。

  2. 客観的な、データによる、迅速な、支払い:災害が、発生した後、保険会社は、気象衛星や、公的な、観測データといった、独立した、第三者の、客観的な、データソースに基づいて、支払条件が、満たされたかどうかを、判断します。

    条件が、満たされていれば、損害調査を、一切、行うことなく、数日〜数週間という、極めて、短期間で、契約通りの、保険金が、支払われます。

パラメトリック保険の、メリット

  • 支払いの「迅速性」と「確実性」:最大のメリットは、これです。

    被災者は、災害発生後、すぐに、事業の、復旧や、生活の、再建に、必要な、資金を、手にすることができ、迅速な、立ち直りが、可能になります。

  • 管理コストの、削減:保険会社にとっても、一件一件、現地に、赴いて、損害調査を、行う、コストと、手間を、大幅に、削減できる、というメリットが、あります。
  • 透明性:支払いの、トリガーが、客観的な、データに、基づいているため、保険金の、支払いに関する、プロセスが、非常に、透明で、分かりやすい、という特徴があります。

カーボンクレジット市場との、関係

この、パラメトリック保険の、仕組みは、カーボンクレジット、特に、自然をベースにした(NCS)プロジェクトの、リスク管理においても、非常に、有効な、ツールと、なり得ます。

例えば、森林保全(REDD+)プロジェクトの、投資家や、開発者が、以下のような、パラメトリック保険に、加入する、という、ケースが、考えられます。…

【企業の適応戦略】「水リスク」は、企業の、財務に、どのような、影響を、与えるか?

はじめに:見過ごされてきた「青い、金脈」、あるいは「青い、地雷」

気候変動リスクについて、語られるとき、その、議論は、しばしば「炭素(カーボン)」に、集中しがちです。

しかし、多くの、産業にとって、炭素と、同じか、あるいは、それ以上に、事業の、存続を、根底から、揺るがしかねない、もう一つの、重要な、環境リスクが、あります。

それが、「水リスク」です。

気候変動が、引き起こす、水不足、洪水、そして、水質汚染。

これらは、もはや、単なる「環境問題」では、ありません。

企業の、収益や、資産価値に、直接的な、影響を、与える、深刻な「財務リスク」なのです。

今回は、この、見過ごされがちな「水リスク」が、企業の、財務に、どのような、インパクトを、与えるのか、その、具体的な、経路について、解説します。

水リスクが、企業の、財務諸表を、蝕む、3つの経路

水リスクは、主に、3つの、経路を通じて、企業の、損益計算書(P/L)と、貸借対照表(B/S)を、毀損します。

経路1:物理的リスクによる「直接的な、損害」

これは、水不足や、洪水といった、物理的な、現象が、直接、企業の、事業活動を、停止させ、収益機会の、損失や、資産の、毀損を、引き起こす、リスクです。

  • 操業停止による、収益の、減少

    水不足:半導体工場や、データセンターのように、製造や、冷却に、大量の、清浄な水を、必要とする、施設が、渇水によって、取水制限を、受け、操業停止に、追い込まれる。

    洪水:工場や、店舗が、洪水によって、浸水し、長期間、営業できなくなる。

  • 資産の、減損

    ・工場や、設備が、洪水や、土砂災害によって、物理的に、破壊され、その、資産価値が、失われる(減損処理)。

  • サプライチェーンの、寸断

    ・自社だけでなく、上流の、サプライヤーが、被災することで、部品や、原材料の、調達が、滞り、生産が、ストップしてしまう。

経路2:規制・評判リスクによる「コストの、増加」

水問題の、深刻化に、対応するため、政府や、社会が、企業に、課す、新しい「コスト」です。

  • 規制の、強化

    水価格の、上昇:政府が、水不足に、対応するため、工業用水の、価格を、引き上げたり、水税を、導入したりする。

    排水基準の、厳格化:水質汚染を、防ぐため、工場からの、排水基準が、厳しくなり、より、高度な、水処理設備への、投資が、必要になる。

  • 評判(レピュテーション)の、悪化