プロジェクトの「永続性」をどう担保する?火災や紛争のリスクに備える

はじめに:100年後も、その森は、そこにありますか?

特に、植林や、森林保全(REDD+)といった、自然をベースにしたカーボンクレジットプロジェクトに投資する際、私たちが、必ず考えなければならない、重要なリスクがあります。

それが、「永続性(Permanence)」のリスクです。

つまり、「プロジェクトによって吸収・貯留されたはずの炭素が、将来、予期せぬ出来事によって、再び、大気中に放出されてしまうのではないか?

」というリスクです。

例えば、植林した森が、数十年後に、大規模な山火事で、焼失してしまったら…?

今回は、この「永続性」のリスクと、市場が、そのリスクに、どう備えているのか、その仕組みについて、解説します。

永続性を脅かす、主なリスク

自然ベースのプロジェクトが、長期にわたって炭素を貯留し続けることを、脅かす可能性のある、主なリスクには、以下のようなものがあります。

  • 自然災害:山火事、ハリケーン、干ばつ、病虫害の大量発生など。

    気候変動が、皮肉にも、これらのリスクを、さらに高めています。

  • 人為的な要因:違法な伐採や、土地利用の転換(例:森林が、農地や、鉱山に変えられてしまう)。
  • ガバナンス・リスク:プロジェクトを管理する、国や、地域の、政治が不安定化したり、紛争が発生したりすることで、プロジェクトの継続が、困難になるリスク。

これらのリスクにより、貯留した炭素が、意図せず、大気中に放出されてしまうことを、「非自発的なリバーサル(Non-permanence / Reversal)」と呼びます。

リスクへの備え:バッファープールという「保険」

では、市場は、この避けがたいリスクに対して、どのように備えているのでしょうか。

その、中心的な仕組みが、認証機関(Verraなど)が管理する、「バッファープール(Buffer Pool)」という、共同の保険制度です。

  • 仕組み

    1. まず、個々のプロジェクトは、そのプロジェクトが抱える「永続性リスク」の大きさを、認証機関が定めたツールを使って、評価・スコアリングされます。

    (例:火災のリスクが高い地域か、政治的に安定している国か、など)

    2. プロジェクトは、そのリスク評価に応じて、発行されたクレジットの、一定割合(例えば、リスクが低いプロジェクトは10%、高いプロジェクトは30%など)を、共通の「バッファープール」に、保険料のように、預け入れることが義務付けられます。

    この、プールに預けられたクレジットは、市場で販売することはできません。

    3. もし、あるプロジェクト(A)で、大規模な山火事が起き、貯留していた炭素が、全て失われてしまったとします。

    その場合、認証機関は、このバッファープールから、失われた量と、同量のクレジットを取り崩し、「無効化」します。

  • 効果

【リスク管理】プロジェクトの失敗に備える「保険」の役割とは?

はじめに:未来への投資に、「安心」をプラスする

カーボンクレジット、特に、自然をベースにしたプロジェクトへの投資には、様々なリスクが、つきものです。

「永続性リスク(火災など)」、「リーケージ(漏出)リスク」、そして、プロジェクトが、計画通りにCO2を削減できない「履行リスク」。

こうしたリスクに対して、市場は、「バッファープール」のような、自己保険的な仕組みを、備えてきました。

しかし、市場が、さらに拡大し、より多くの、慎重な機関投資家を、呼び込むためには、もう一段、高度なリスク管理の仕組みが、必要になります。

そこで今、注目されているのが、伝統的な「保険(Insurance)」の、カーボンクレジット市場における、新しい役割です。

今回は、保険が、いかにして、プロジェクトのリスクを、軽減し、市場の信頼性を、高めるのかを、解説します。

保険が、カバーする、主なリスク

ロイズなどの、先進的な保険会社や、専門のスタートアップ企業が、カーボンクレジット市場に特化した、様々な保険商品を、開発し始めています。

これらは、主に、クレジットの「買い手(投資家)」と、「売り手(プロジェクト開発者)」の、両方が抱えるリスクを、カバーします。

買い手(投資家)向け保険

これは、購入したカーボンクレジットが、将来、その価値を、失ってしまうリスクから、投資家を、守るための保険です。

  • 永続性リスク保険:購入したクレジットの元となる、森林プロジェクトが、火災や、自然災害で、焼失してしまった場合に、投資家が支払った、購入代金を、補償します。

    バッファープールが、市場全体の「環境健全性」を守るのに対し、こちらは、個々の投資家の「金銭的損失」を、直接、補填します。

  • 無効化リスク保険:購入したクレジットが、後から、認証機関のレビューなどによって、「無効(Invalid)」と判断されてしまった場合に、その損失を、補償します。

売り手(プロジェクト開発者)向け保険

こちらは、プロジェクト開発者が、直面する、様々な不確実性から、彼らを守り、プロジェクトの立ち上げを、後押しするための保険です。

  • 天候・災害保険:干ばつや、洪水といった、自然災害によって、計画通りに、植林ができなかったり、作物が育たなかったりした場合の、損害を、補償します。
  • 政治リスク保険:プロジェクトが行われている国の、政変や、紛争、法律の急な変更などによって、プロジェクトの継続が、困難になった場合の、損失を、補償します。

保険が、市場全体に、もたらすメリット

保険の役割は、単に、個別のリスクを、カバーするだけではありません。

市場全体に、ポジティブな、好循環を、もたらします。

  • 市場の信頼性向上:保険という、伝統的で、信頼性の高い、リスク管理手法が、導入されることで、これまで、市場への参入を、ためらっていた、銀行や、年金基金といった、慎重な機関投資家が、安心して、市場に、資金を、供給できるようになります。
  • プロジェクトの質の向上:保険会社は、保険を引き受ける際に、そのプロジェクトのリスクを、非常に厳しく、査定します。

    つまり、保険会社による「第三者の目」が、プロジェクトの品質を、スクリーニングする、新しい「フィルター」として、機能するのです。

    リスク管理が、ずさんなプロジェクトは、高い保険料を、課されたり、そもそも、保険の引き受けを、拒否されたりするため、自然と、市場から、淘汰されていきます。

まとめ:リスクの「移転」が、成長を加速させる

保険とは、本質的に、個人や、一企業では、抱えきれない、大きなリスクを、保険会社に「移転」し、社会全体で、分散して、引き受ける、という仕組みです。

カーボンクレジット市場に、この仕組みが、本格的に、導入されること。

それは、プロジェクト開発者が、より、大胆な挑戦を、可能にし、投資家が、より、安心して、資金を投じられる、環境を、整えることを、意味します。

まだ、始まったばかりの、この動きですが、保険という「セーフティネット」の存在が、今後の、カーボンクレジット市場の、健全な成長を、力強く、下支えしていくことは、間違いありません。

プロジェクトを選ぶ際に、「このプロジェクトは、何らかの保険に、加入しているだろうか?…

【企業の倫理】「ESGウォッシング」とは?見せかけの、社会貢献を、見抜く、5つの、視点

はじめに:その「良いこと」、本当に、信じて、大丈夫?

私たちは、これまで、企業が、環境に、配慮している「フリ」をする、「グリーンウォッシュ」について、学んできました。

しかし、企業の「見せかけ」は、環境(E)の、分野だけに、留まりません。

社会(S)や、ガバナンス(G)の、側面においても、企業は、その、実態以上に、自らを、倫理的で、責任ある、存在であるかのように、見せかけようと、することが、あります。

このように、環境、社会、ガバナンスの、いずれか、あるいは、全ての側面において、実態が、伴わないにもかかわらず、過度に、ポジティブな、情報を、発信し、ステークホルダーを、欺こうとする、行為

それが、より、広範な、概念である「ESGウォッシング」です。

今回は、この、巧妙な「ESGウォッシング」の、手口と、その、化けの皮を、剥がすための、5つの、視点を、解説します。

ESGウォッシングの、典型的な、手口

ESGウォッシングは、様々な形で、現れます。

  • グリーンウォッシング(E):本質的な、CO2削減努力を、怠り、安価な、カーボンクレジットの、購入だけで「カーボンニュートラル」を、謳う。
  • ソーシャルウォッシング(S):自社の、サプライチェーンで、劣悪な、労働環境や、人権侵害が、行われている、事実を、隠蔽し、社会貢献活動(寄付など)の、側面だけを、強調する。
  • ガバナンスウォッシング(G):取締役会の、多様性や、独立性が、欠如しているにもかかわらず、報告書の上では、健全な、ガバナンス体制が、機能しているかのように、見せかける。

これらは、しばしば、複合的に、行われます。

ESGウォッシングを、見抜くための、5つの、視点

では、私たちは、企業の、ESGに関する、主張の、どこに、目を、光らせれば、良いのでしょうか。

1. 「具体性」と「データ」の、欠如

「サステナブルな、社会の実現に、貢献します」。

「多様性を、尊重する、企業文化を、目指します」。

こうした、耳障りの良い、しかし、曖昧で、抽象的な、スローガンばかりが、並んでいないか。

チェックポイント:その、主張を、裏付ける、具体的な「数値目標(KPI)」や「実績データ」が、明確に、示されているか。

その、データの、算出根拠は、透明性が、高いか。

第三者による、保証(アシュアランス)を、受けているか。

2. 「良いこと」ばかりの、一方的な、情報開示

サステナビリティ報告書が、自社の、ポジティブな、取り組みの、自画自賛に、終始し、自社が、直面している「課題」や「リスク」、「失敗事例」について、全く、触れられていない。

チェックポイント:企業が、自社にとって「不都合な、真実」も、含めて、誠実に、開示しようと、しているか。

リスクと、機会の、両側面を、バランス良く、報告しているか。

3. 「本業」との、乖離

企業の、社会貢献活動が、その、中核となる「ビジネスモデル」と、全く、関係のない、分野で、行われている。…

【企業の適応戦略】「物理的リスク」と「移行リスク」、あなたの会社は、どちらが、より、深刻か?

はじめに:リスクの「種類」を、見極める

私たちは、TCFDの、枠組みの中で、企業が、直面する、気候変動リスクには、大きく分けて、二つの、種類が、あることを、学びました。

一つは、台風や、洪水といった、気候変動の、物理的な、影響そのものが、もたらす「物理的リスク」

もう一つは、脱炭素社会へと、移行していく、経済・社会の、構造変化が、もたらす「移行リスク」です。

あなたの、会社にとって、あるいは、あなたの、投資先の、企業にとって、この、二つの、リスクの、どちらが、より、深刻で、緊急性の高い、経営課題なのでしょうか。

今回は、業種や、事業内容によって、異なる、リスクの「プロファイル」を、どう、見極めるべきか、その、考え方の、ヒントを、提供します。

リスク・プロファイルの、類型

企業の、リスク・プロファイルは、大きく、4つの、類型に、分類することができます。

タイプ1:移行リスク「高」・物理的リスク「高」

最も、厳しい、状況に、置かれているのが、この、タイプの企業です。

  • 該当する、業種の例

    化石燃料産業(石油、ガス、石炭):事業そのものが「移行リスク」の、塊であると、同時に、沿岸部に、位置する、製油所や、パイプラインなどは、海面上昇や、ハリケーンといった「物理的リスク」にも、非常に、脆弱です。

    農業・食料産業:異常気象による、不作(物理的リスク)に、直接、晒されると、同時に、消費者の、プラントベースへの、嗜好の変化や、リジェネラティブ農業への、転換といった「移行リスク」にも、直面しています。

  • 求められる、戦略:ビジネスモデルの、根本的な、変革(トランスフォーメーション)が、不可欠です。

    既存事業からの、計画的な、撤退と、新しい、グリーンな、事業分野への、大胆な、再投資が、求められます。

タイプ2:移行リスク「高」・物理的リスク「低」

物理的な、資産は、少ないものの、その、ビジネスモデルが、脱炭素化の、流れと、逆行している、タイプの企業です。

  • 該当する、業種の例

    自動車産業:ガソリン車から、電気自動車(EV)への、急速な、技術シフトという、巨大な「移行リスク」に、直面しています。

    金融・保険業界:投融資先の、資産が「座礁資産」と、なるリスクや、気候関連の、訴訟リスクといった「移行リスク」に、大きく、晒されています。

  • 求められる、戦略:製品ポートフォリオの、抜本的な、見直しや、新しい、金融商品の、開発、リスク管理手法の、高度化といった、戦略的な、適応が、急務です。

タイプ3:移行リスク「低」・物理的リスク「高」

自社の、事業活動そのものは、CO2排出量が、少なく、移行リスクは、小さいものの、その、物理的な、資産や、サプライチェーンが、自然災害の、脅威に、晒されている、タイプの企業です。

  • 該当する、業種の例

【重要概念】「永続性(Permanence)」とは?炭素貯留の時間を考える

はじめに:そのCO2、いつまで「隔離」しておけますか?

カーボンクレジット、特に、植林や、土壌改善といった、自然の力を利用した「炭素除去(リムーバル)」プロジェクトを評価する上で、避けては通れない、最も重要で、かつ、最も難しい概念。

それが、「永続性(Permanence)」です。

これは、一言でいうと、「プロジェクトによって、大気中から取り除かれ、貯留された炭素が、どのくらいの期間、再び、大気中に放出されることなく、安全に隔離され続けるか」という、時間の概念です。

100年後、1000年後も、その炭素は、本当に、そこにあり続けますか?

今回は、この、奥深い「永続性」の世界を、探求してみましょう。

なぜ「永続性」は、これほど重要なのか?

大気中に排出されたCO2は、その多くが、数百年以上にわたって、大気中に留まり、地球を温め続けます。

したがって、そのCO2を除去した、と主張するためには、除去した炭素もまた、それと、同程度の期間、確実に、大気から隔離され続けなければ、気候変動に対する、真の解決策とは言えません。

もし、植林プロジェクトで、植えた木が、わずか数十年で、伐採されたり、火事で燃えたりして、吸収したCO2が、再び、大気中に戻ってしまったら、それは、単に、炭素を「一時的に、借りていただけ」に過ぎなくなってしまいます。

プロジェクトタイプによる、永続性の違い

「永続性」の度合いは、プロジェクトの種類によって、大きく異なります。

  • 地中貯留(Geological Storage)

    :DAC(直接空気回収)で回収したCO2を、地下深くの安定した地層に封じ込める。

    永続性1000年以上。適切に管理された地層に貯留されたCO2は、事実上、半永久的に隔離されると考えられており、最も永続性が高い方法とされています。

  • 鉱物化(Mineralization)

    :回収したCO2を、コンクリートなどの鉱物と、化学的に反応させて、安定した炭酸塩として固定する。

    永続性1000年以上。地中貯留と並び、非常に高い永続性を持ちます。

  • バイオ炭(Biochar)

【未来の民主主義】「気候変動訴訟」は、政府や、企業の、行動を、どう、変えるか?

はじめに:法廷が、気候変動対策の、新しい「戦場」になる

政府の、気候変動対策が、不十分だ。

企業の、事業活動が、私たちの、生存権を、脅かしている。

こうした、訴えを、市民や、NGOが、裁判所に、持ち込み、司法の、判断を、通じて、政府や、企業の、より、野心的な、行動を、引き出そうとする、動き。

それが、「気候変動訴訟(Climate Litigation)」です。

かつては、勝訴の、見込みが、ほとんどない、象徴的な、アクションと、見なされてきました。

しかし、近年、その、様相は、大きく、変わり、気候変動訴訟は、今や、世界中の、気候変動対策を、加速させる、最も、パワフルな、ドライバーの、一つと、なっています。

今回は、この、新しい「戦場」の、最前線で、何が、起きているのかを、見ていきましょう。

気候変動訴訟の、主な、3つのタイプ

タイプ1:政府を、訴える – 「国の、不作為は、違憲・違法だ」

これは、国の、気候変動対策の、目標や、政策が、国民の、生命や、幸福を、守る、という、憲法上の、義務に、違反している、として、その、不作為の、違法性を、問う、訴訟です。

  • 画期的な、判例(オランダ・ウルヘンダ訴訟):2019年、オランダの、最高裁判所は、環境NGO「ウルヘンダ財団」の、訴えを、認め、「政府の、CO2削減目標(当時)は、不十分であり、国民の、人権を、守る、義務を、果たしていない」として、政府に対して、より、高い、削減目標を、課すことを、命じる、歴史的な、判決を、下しました。
  • その、インパクト:この「ウルヘンダ判決」は、世界中に、衝撃を、与え、同様の、訴訟が、ドイツ、フランス、アイルランドなど、各国で、次々と、提起され、市民側の、勝訴判決が、相次いでいます。

    司法が、行政府の、気候変動対策の、野心度を、直接、審査する、という、新しい、流れを、作り出しました。

タイプ2:企業を、訴える – 「あなたの、排出が、損害を、生んだ」

これは、石油メジャーなどの、化石燃料企業に対して、その、企業が、歴史的に、排出してきた、大量のCO2が、気候変動を、引き起こし、原告(市民、地方自治体など)に、与えた「損害」に対する、賠償を、求める、訴訟です。

  • 論点:特定の、異常気象(ハリケーンなど)と、特定の、企業の、過去の排出との、間の「因果関係」を、科学的に、証明できるか、が、最大の、争点です。

    近年、この「イベント・アトリビューション(気候変動の、影響評価)」という、科学分野の、進展が、著しく、原告側の、主張を、後押ししています。

タイプ3:企業を、訴える – 「あなたの、宣言は、グリーンウォッシュだ」

これは、企業が、自社の、製品や、活動について、環境に、配慮しているかのように、偽ったり、誤解を、招く、表示をしたり、すること(グリーンウォッシュ)が、消費者保護法などに、違反する、として、その、差し止めや、是正を、求める、訴訟です。

  • 画期的な、判例(オランダ・シェル訴訟):2021年、オランダの、裁判所は、石油メジャー「ロイヤル・ダッチ・シェル」に対して、同社の、気候変動対策は、不十分であり、オランダの、人権法に、違反する、として、より、野心的な、CO2削減(2030年までに、45%削減)を、命じる、画期的な、判決を、下しました。

    これは、一企業の、経営戦略そのものに、司法が、直接、踏み込んだ、事例として、世界に、衝撃を、与えました。

まとめ:司法が、民主主義の「最後の砦」となる

気候変動訴訟の、急速な、増加と、成功。

それは、多くの国の、政府や、議会が、気候変動の、危機に対して、十分な、速度と、規模で、行動できていない、という、「民主主義の、失敗」に対する、市民社会の、深い、苛立ちと、危機感の、現れです。…

【企業の適応戦略】「座礁資産」とは?あなたの会社の資産は、明日、ゴミになるかもしれない

はじめに:価値がある、と信じていたものが、突然、無価値になる、という悪夢

「座礁資産(Stranded Assets)」。

この、少し、不穏な響きを持つ、言葉が、今、気候変動の、文脈で、企業経営者や、投資家の間で、最も、恐れられる、リスクの一つとして、認識されています。

それは、一言でいうと、予期せぬ、市場環境や、社会制度の、変化によって、これまで「資産」として、バランスシートに、計上されていたものが、その価値を、大幅に、失い、時には、無価値な「負債」へと、転落してしまう、という、悪夢のような、事態を、指します。

そして、脱炭素社会への、移行は、まさに、この、座礁資産を、大量に、生み出す、巨大な、構造変化なのです。

今回は、この、座礁資産の、リスクについて、具体例と共に、解説します。

なぜ「座礁資産」は、生まれるのか?

気候変動関連の、座礁資産は、主に、低炭素社会への「移行リスク」によって、引き起こされます。

  • 市場の変化:消費者の、嗜好が、変化し、環境負荷の高い、製品が、売れなくなる。

    (例:燃費の悪い、大型ガソリン車)

  • 技術の変化:より、安価で、効率的な、クリーン技術が、登場し、既存の、古い技術が、陳腐化する。

    (例:再生可能エネルギーの、コスト低下による、石炭火力発電の、競争力低下)

  • 政策・規制の変化:政府が、より、厳しい、環境規制や、カーボンプライシングを、導入し、CO2排出量の多い、事業活動の、コストが、急激に、上昇する。

こうした、変化によって、これまで、利益を、生み出すと、期待されていた、資産が、その、収益力を、失い、「座礁」してしまうのです。

座礁資産と、なる可能性のある、具体的な資産

1. 化石燃料の「埋蔵量」

最も、代表的な、座礁資産の、候補です。

石油、ガス、石炭会社は、自社が、権利を持つ、地下の「確認埋蔵量」を、巨大な資産として、計上しています。

しかし、パリ協定の、1.5℃目標を、達成するためには、現在、確認されている、世界の、化石燃料埋蔵量の、うち、実に、3分の2以上は、燃焼させることなく、地下に、残しておかなければならない、と、言われています。

つまり、これらの「資産」は、将来、決して、掘り出すことのできない、事実上の「埋没資産」と、なる、可能性が、非常に高いのです。

2. 化石燃料を、利用する「インフラ」

  • 石炭火力発電所:厳しい、排出規制や、再エネとの、コスト競争によって、その、採算性は、急速に、悪化しています。

    まだ、建設から、年数が、浅い、発電所であっても、その、寿命を、全うする前に、閉鎖を、余儀なくされる、可能性があります。

  • 石油・ガス関連インフラ:パイプライン、製油所、LNG基地なども、世界の、脱化石燃料化が、進めば、その、利用価値が、低下していきます。

3. エネルギー効率の低い「資産」

  • 燃費の悪い、自動車や、航空機:ガソリン価格の、高騰や、消費者からの、敬遠によって、その、中古市場での、価値が、下落します。

【企業の適応戦略】「気候変動ロビイング」の、光と影。あなたの会社は、どちら側?

はじめに:水面下で、繰り広げられる、もう一つの「戦い」

企業の、気候変動対策について、語られるとき、私たちは、つい、その、公に、発表される、サステナビリティ報告や、ネットゼロ宣言といった「表の顔」に、注目しがちです。

しかし、その、水面下では、企業の、真の「本音」が、現れる、もう一つの、重要な「戦場」が、あります。

それが、政府の、環境政策の、決定プロセスに、影響を、与えるための、「ロビイング(ロビー活動)」です。

企業の、ロビイング活動は、気候変動対策を、加速させる「光」の、力にも、なれば、それを、妨害し、骨抜きにする「影」の、力にも、なり得ます。

今回は、この、企業の、政治への、働きかけの、実態と、私たち、投資家が、その「言行不一致」を、どう、見抜くべきかを、解説します。

気候変動ロビイングの「光」と「影」

光:ポジティブ・ロビイング

これは、企業が、自社の、利益のためだけでなく、社会全体の、脱炭素化を、加速させるために、政府に対して、より、野心的な、気候変動政策の、導入を、働きかける、ポジティブな、活動です。

  • 活動の例

    ・再生可能エネルギー関連の、企業が、業界団体を、通じて、政府に、より、高い、再エネ導入目標や、カーボンプライシングの、導入を、求める。

    ・先進的な、グローバル企業が、連合(アライアンス)を、組み、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などの、国際交渉の場で、各国政府に、より、大胆な、目標設定を、促す。

  • 動機:自社の、クリーンな、製品や、サービスが、より、競争力を、持つような、公平な「ゲームのルール」を、政府に、作ってもらいたい、という、経済合理的な、動機と、純粋な、社会貢献の、意識が、結びついています。

影:ネガティブ・ロビイング

これが、より、問題となる、側面です。

企業が、表向きは、気候変動対策に、賛成する、ポーズを、取りながら、その、裏では、自社の、短期的な、利益を、守るために、気候変動対策を、遅らせ、弱体化させるような、ロビー活動を、行うことです。

  • 活動の例

    ・化石燃料業界や、排出量の多い、産業の、業界団体が、多額の、政治献金を、行い、炭素税の、導入に、反対したり、排出規制の、基準を、緩めるように、圧力を、かけたりする。

    ・企業の、法務部門が、新しい、環境規制の、法案の「抜け穴」を、探したり、その、施行を、遅らせるための、法的な、異議申し立てを、行ったりする。

  • 問題点:こうした、ネガティブ・ロビイングは、企業の「公的な、発言(サステナビリティ報告など)」と「実際の、政治行動」との間に、著しい「言行不一致」を、生み出し、その企業の、信頼性を、根底から、揺るがします。

投資家は、どう「言行不一致」を、見抜くか?

企業の、ロビー活動は、多くの場合、水面下で、行われるため、外部から、その、実態を、正確に、把握することは、容易では、ありません。

しかし、近年、企業の、政治活動の、透明性を、評価・格付けする、専門の、非営利団体(例:InfluenceMap)などが、登場し、投資家が、利用できる、情報も、増えてきました。

投資家として、企業の、真の姿勢を、見抜くためには、以下の、視点が、重要になります。

  1. 業界団体への、関与:その企業が、加盟している「業界団体」が、どのような、ロビー活動を、行っているかを、チェックします。

    たとえ、個別の企業が、ポジティブな、発言を、していても、その企業が、多額の、会費を、払っている、業界団体が、ネガティブ・ロビイングを、行っているのであれば、その企業もまた、間接的に、その活動を、支持している、と見なされます。

  2. 政治献金の、透明性:その企業が、どの、政党や、政治家に、献金を、行っているか。

    その、政治家が、気候変動に対して、どのような、スタンスを、取っているか。

  3. TCFD報告などでの、情報開示:先進的な企業は、TCFD提言に、沿った、情報開示の中で、自社の、気候関連の、ロビー活動に関する、方針や、ガバナンス体制について、自主的に、開示し始めています。

【未来の保険】「パラメトリック保険」は、気候変動の、災害リスクを、どう、変えるか?

はじめに:災害の「後」では、もう、遅い

台風、洪水、干ばつ…。

気候変動によって、激甚化する、自然災害は、私たちの、生活や、事業に、壊滅的な、ダメージを、与えます。

従来の、損害保険は、災害が「発生した後」に、実際の、損害額を、調査・査定し、それに基づいて、保険金が、支払われる、という、仕組みです。

しかし、この方法では、保険金が、支払われるまでに、数ヶ月という、長い時間が、かかることも、少なくなく、被災者の、迅速な、生活再建や、事業復旧の、大きな、足かせと、なっていました。

この、課題を、解決するための、新しい、保険の形として、今、注目を、集めているのが、「パラメトリック保険(Parametric Insurance)」です。

今回は、この、未来の、災害保険の、仕組みについて、解説します。

パラメトリック保険とは?

パラメトリック保険は、従来の、損害保険とは、全く、異なる、発想に、基づいています。

それは、実際の「損害額」に、基づくのではなく、あらかじめ、定めておいた、客観的な「パラメータ(指標)」が、特定の、閾値(いきち)を、超えた場合に、契約で、決められた、一定額の、保険金を、迅速に、支払う、という、仕組みです。

その、仕組み

  1. パラメータと、支払条件の、設定:保険契約を結ぶ際に、トリガー(引き金)となる、客観的な、物理的パラメータと、その、支払条件を、具体的に、設定します。

    例(台風の場合):台風の「最大風速」が、秒速〇〇メートルを、超えた場合、あるいは、「中心気圧」が、〇〇ヘクトパスカルを、下回った場合に、保険金1,000万円を、支払う。

    例(干ばつの場合):特定の、観測地点での「降水量」が、3ヶ月間、連続で、〇〇ミリを、下回った場合に、保険金500万円を、支払う。

  2. 客観的な、データによる、迅速な、支払い:災害が、発生した後、保険会社は、気象衛星や、公的な、観測データといった、独立した、第三者の、客観的な、データソースに基づいて、支払条件が、満たされたかどうかを、判断します。

    条件が、満たされていれば、損害調査を、一切、行うことなく、数日〜数週間という、極めて、短期間で、契約通りの、保険金が、支払われます。

パラメトリック保険の、メリット

  • 支払いの「迅速性」と「確実性」:最大のメリットは、これです。

    被災者は、災害発生後、すぐに、事業の、復旧や、生活の、再建に、必要な、資金を、手にすることができ、迅速な、立ち直りが、可能になります。

  • 管理コストの、削減:保険会社にとっても、一件一件、現地に、赴いて、損害調査を、行う、コストと、手間を、大幅に、削減できる、というメリットが、あります。
  • 透明性:支払いの、トリガーが、客観的な、データに、基づいているため、保険金の、支払いに関する、プロセスが、非常に、透明で、分かりやすい、という特徴があります。

カーボンクレジット市場との、関係

この、パラメトリック保険の、仕組みは、カーボンクレジット、特に、自然をベースにした(NCS)プロジェクトの、リスク管理においても、非常に、有効な、ツールと、なり得ます。

例えば、森林保全(REDD+)プロジェクトの、投資家や、開発者が、以下のような、パラメトリック保険に、加入する、という、ケースが、考えられます。…

【企業の適応戦略】「水リスク」は、企業の、財務に、どのような、影響を、与えるか?

はじめに:見過ごされてきた「青い、金脈」、あるいは「青い、地雷」

気候変動リスクについて、語られるとき、その、議論は、しばしば「炭素(カーボン)」に、集中しがちです。

しかし、多くの、産業にとって、炭素と、同じか、あるいは、それ以上に、事業の、存続を、根底から、揺るがしかねない、もう一つの、重要な、環境リスクが、あります。

それが、「水リスク」です。

気候変動が、引き起こす、水不足、洪水、そして、水質汚染。

これらは、もはや、単なる「環境問題」では、ありません。

企業の、収益や、資産価値に、直接的な、影響を、与える、深刻な「財務リスク」なのです。

今回は、この、見過ごされがちな「水リスク」が、企業の、財務に、どのような、インパクトを、与えるのか、その、具体的な、経路について、解説します。

水リスクが、企業の、財務諸表を、蝕む、3つの経路

水リスクは、主に、3つの、経路を通じて、企業の、損益計算書(P/L)と、貸借対照表(B/S)を、毀損します。

経路1:物理的リスクによる「直接的な、損害」

これは、水不足や、洪水といった、物理的な、現象が、直接、企業の、事業活動を、停止させ、収益機会の、損失や、資産の、毀損を、引き起こす、リスクです。

  • 操業停止による、収益の、減少

    水不足:半導体工場や、データセンターのように、製造や、冷却に、大量の、清浄な水を、必要とする、施設が、渇水によって、取水制限を、受け、操業停止に、追い込まれる。

    洪水:工場や、店舗が、洪水によって、浸水し、長期間、営業できなくなる。

  • 資産の、減損

    ・工場や、設備が、洪水や、土砂災害によって、物理的に、破壊され、その、資産価値が、失われる(減損処理)。

  • サプライチェーンの、寸断

    ・自社だけでなく、上流の、サプライヤーが、被災することで、部品や、原材料の、調達が、滞り、生産が、ストップしてしまう。

経路2:規制・評判リスクによる「コストの、増加」

水問題の、深刻化に、対応するため、政府や、社会が、企業に、課す、新しい「コスト」です。

  • 規制の、強化

    水価格の、上昇:政府が、水不足に、対応するため、工業用水の、価格を、引き上げたり、水税を、導入したりする。

    排水基準の、厳格化:水質汚染を、防ぐため、工場からの、排水基準が、厳しくなり、より、高度な、水処理設備への、投資が、必要になる。

  • 評判(レピュテーション)の、悪化