【比較】各国の炭素価格、その違いはなぜ生まれる?日本の現在地は?

はじめに:CO2の「値段」、あなたの国では、おいくらですか?

「カーボンプライシング(炭素への価格付け)」の重要性が、世界中で、認識される中、その具体的な「値段」は、国や、地域によって、驚くほど、大きな差があります。

例えば、スウェーデンの炭素税は、1トンあたり、100ユーロを超える、高い水準である一方、多くの国では、まだ、数ユーロ程度に、留まっています。

なぜ、これほどまでに、CO2の「値段」は、異なるのでしょうか?

そして、日本の「炭素価格」は、世界の中で、どのような位置にいるのでしょうか。

今回は、各国の炭素価格の違いと、その背景にある、経済的・政治的な事情について、比較・解説します。

炭素価格を、決定する、主な要因

各国の炭素価格の水準は、主に、以下の要因の、複雑な組み合わせによって、決まります。

1. 政策目標の「野心度」

その国が、どれだけ、野心的な、CO2削減目標を、掲げているか。

これが、最も、基本的な決定要因です。

EUのように、「2030年までに、55%削減」といった、非常に高い目標を、法律で定めている地域では、その目標を達成するために、企業に対して、高い炭素価格を、課す必要が出てきます。

2. 経済への「影響」への配慮

炭素価格の導入は、エネルギー価格の上昇などを通じて、その国の、産業の国際競争力や、国民の生活に、短期的な「痛み」を、もたらす可能性があります。

特に、製造業への依存度が高い国や、エネルギーを、輸入に頼っている国では、産業界からの、強い抵抗が予想されるため、政府は、炭素価格を、低めに設定する、という、政治的な判断を、下しがちです。

3. エネルギー構成(電源構成)

その国が、どのような、エネルギー源に、依存しているかも、重要な要素です。

フランスのように、原子力発電の比率が高く、もともと、電力部門のCO2排出量が少ない国では、高い炭素価格を導入しても、経済への影響が、比較的小さく、導入のハードルが低くなります。

一方で、石炭火力への依存度が高い国では、高い炭素価格は、電力料金の、急激な高騰に、直結するため、慎重な判断が、求められます。

4. 国民の「支持」と「理解」

最終的に、炭素価格の導入と、その水準を、決定するのは、国民の、政治的な支持です。

北欧諸国のように、環境問題への、国民の意識が、非常に高く、政府への信頼も厚い国では、高い炭素税に対しても、国民的なコンセンサス(合意)が、得られやすい、という背景があります。

また、炭素税の税収を、社会保障の充実や、低所得者層への還付に、充てるなど、国民の理解を、得るための、工夫も、重要になります。

日本の「現在地」は?

では、日本の炭素価格は、世界的に見て、どのようなレベルにあるのでしょうか。

残念ながら、2024年現在、日本の、明示的な炭素価格(地球温暖化対策税など)は、1トンあたり、数百円程度と、国際的に見て、極めて低い水準にあります。

これは、上記で述べた、産業界への配慮や、エネルギー構成の問題などが、背景にあると考えられます。

しかし、政府は、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」政策の中で、今後は、本格的な、カーボンプライシングの導入を、段階的に、進めていく方針を、示しています。

具体的には、「排出量取引制度」と、「化石燃料の輸入事業者に対する、賦課金」を、組み合わせた、日本独自の制度の導入が、検討されています。

まとめ:価格差に、各国の「事情」が見える

各国の炭素価格の違い。

それは、単なる数字の差、というだけではありません。…

【海運・航空業界】国際輸送の脱炭素化とカーボンクレジットの役割

はじめに:国境を越える「排出源」を、どう捕まえるか

私たちの、グローバルな経済活動や、豊かな生活を支える、国際海運(コンテナ船など)と、国際航空(旅客機、貨物機)。

しかし、この二つのセクターは、合わせて、世界のCO2排出量の、約5%を占める、巨大な排出源でありながら、その対策が、非常に難しい、という、悩ましい課題を抱えています。

なぜなら、その活動が、特定の「国」に、帰属しない、国境を越えたものであるため、パリ協定のような、国別の削減目標の「枠外」に、置かれてきたからです。

今回は、この「捕まえどころのない」排出源の、脱炭素化に向けた、国際的な取り組みと、その中で、カーボンクレジットが、どのような、重要な役割を果たそうとしているのかを、解説します。

なぜ、海運・航空の脱炭素化は、難しいのか?

  • 技術的なハードル:船や、飛行機といった、巨大な輸送機器を、動かすためには、膨大なエネルギーが必要です。

    乗用車のように、簡単に、バッテリーEV(電気自動車)に、置き換えることはできません。

    水素や、アンモニア、持続可能な航空燃料(SAF)といった、次世代燃料の研究開発は、進められていますが、その実用化と、普及には、まだ、多くの時間と、コストがかかります。

  • 国際的な合意形成の難しさ:どの国の船籍か、どの国の航空会社か、どこで燃料を補給したか、など、その排出責任の所在が、複雑です。

    世界中の国々が、公平な形で、規制や、コストを、分担するための、国際的なルール作りには、多大な困難が伴います。

国際的な取り組みと、カーボンクレジットの役割

こうした困難な状況を、打開するため、国連の専門機関である、IMO(国際海事機関)と、ICAO(国際民間航空機関)が、それぞれ、業界全体の、CO2削減目標を掲げ、その達成のための、具体的な制度を、導入し始めています。

そして、その両方の制度において、カーボンクレジットによる「オフセット」が、当面の、重要な削減手段として、位置付けられているのです。

航空業界:CORSIA(コルシア)

ICAOが主導する、国際航空のための、カーボン・オフセットと、削減の仕組み(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)です。

  • 仕組み:参加国の航空会社は、基準年(2019年)からの、CO2排出増加分を、オフセットすることが、義務付けられます。
  • クレジットの役割:そのオフセットのために、利用が認められた、適格なカーボンクレジット(Eligible