【アフリカ市場の動向】最後の巨大市場、その可能性と課題

はじめに:未開の「可能性」が、眠る大陸

世界のカーボンクレジット市場において、東南アジアと並び、あるいは、それ以上に、巨大な「潜在能力」を秘めた、最後のフロンティアとして注目されているのが、アフリカ大陸です。

気候変動の、最も深刻な影響を受ける地域の一つでありながら、その広大な土地と、豊富な自然・人的資源は、質の高いカーボンクレジットを生み出す、無限の可能性を秘めています。

今回は、アフリカのカーボンクレジット市場が持つ、独自のポテンシャルと、乗り越えるべき課題について、解説します。

アフリカ市場が持つ、独自のポテンシャル

ポテンシャル1:世界最大級の「炭素除去」のポテンシャル

アフリカは、CO2を吸収・貯留する、自然のソリューションの宝庫です。

  • 広大な森林とサバンナ:コンゴ盆地の熱帯雨林や、広大なサバンナは、地球全体の炭素循環において、極めて重要な役割を果たしています。

    これらの生態系を保全する、大規模なREDD+や、植林プロジェクトの、巨大なポテンシャルがあります。

  • 再生可能エネルギー:一年中、強い日差しが降り注ぐサハラ砂漠の太陽光発電や、大地溝帯の地熱発電など、クリーンエネルギーに関しても、世界有数のポテンシャルを秘めています。
  • リジェネラティブ農業:伝統的な農法を、近代的な科学と組み合わせることで、広大な農地を、CO2を吸収する「炭素のスポンジ」に変える、「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」の、大きな可能性があります。

ポテンシャル2:最もインパクトの大きい「コベネフィット」

アフリカのプロジェクトへの投資は、CO2削減という価値以上に、人々の生活を、劇的に改善する、非常に大きな「コベネフィット(共同便益)」を生み出す可能性があります。

貧困、飢餓、水不足、紛争、ジェンダー不平等…。

この大陸が抱える、根深く、複雑な課題に対して、カーボンクレジットのプロジェクトは、持続可能な「解決策」を提供できるのです。

例えば、クリーンコンロの普及プロジェクトは、CO2削減だけでなく、女性や子供の健康を守り、教育の機会を創出し、貧困からの脱却を助けます。

一つの投資が、SDGsの、多くの目標達成に、直接的に貢献する。

これこそが、アフリカ市場の、最大の魅力と言えるでしょう。

乗り越えるべき、高い壁

しかし、その大きなポテンシャルとは裏腹に、アフリカ市場が、本格的に離陸するためには、多くの、高い壁が存在します。

  • 政治的な不安定さ(地政学リスク):頻発する紛争や、政情不安は、プロジェクトの長期的な継続性を脅かす、最大のリスクです。
  • ガバナンスの脆弱さ:土地の所有権が不明確であったり、法制度の運用が不透明であったり、といった、ガバナンス上の課題が、海外からの投資を、躊躇させる要因となっています。
  • インフラの未整備:プロジェクトを実施するための、道路、電力、通信といった、基本的なインフラが、まだ十分に整備されていない地域も、少なくありません。
  • 資金と人材の不足:プロジェクトを、国際的な基準(Verraなど)に則って、開発・運営できる、現地の専門家や、それを支える資金が、圧倒的に不足しています。

まとめ:リスクの先に、未来の「アルファ」がある

高いリスクと、高いポテンシャル。

アフリカ市場は、まさに「ハイリスク・ハイリターン」な、フロンティア市場の典型と言えます。

だからこそ、私たち個人投資家は、この市場に参加する際には、これまで以上に、慎重なデューデリジェンス(資産価値の調査)が求められます。

信頼できる国際認証はもちろんのこと、プロジェクトの実施主体が、どれだけ現地に根差し、コミュニティとの信頼関係を築けているか、その「実行力」を、見極める必要があります。

しかし、そのリスクを乗り越えた先には、他の市場では得られない、大きな「アルファ(市場平均を上回るリターン)」と、そして何より、人々の未来を、根底から変えるほどの、深い「貢献の喜び」が、待っているはずです。

アフリカの、未だ解き放たれていない可能性に、あなたの「一票」を投じてみること。

それは、最も挑戦的で、最も意義深い、未来への投資の一つなのかもしれません。…

【海外事例】豪州の排出削減基金(ERF)とACCU、その仕組みとは?

はじめに:政府が「買い手」となる、ユニークな市場

世界のカーボンクレジット市場は、企業や個人が、自主的に取引を行う「ボランタリー市場」だけでは、ありません。

国によっては、政府が、独自の制度を、設計・運営し、市場で、中心的な役割を、果たしているケースがあります。

その、最も、ユニークで、先進的な事例の一つが、オーストラリアの「排出削減基金(ERF – Emissions Reduction Fund)」です。

今回は、このERFと、そこで取引される、「ACCU(アキュ)」と呼ばれる、独自のカーボンクレジットの仕組みについて、解説します。

他の国の制度を、知ることは、日本の、未来の制度設計を、考える上でも、重要なヒントを、与えてくれます。

排出削減基金(ERF)とは?

ERFは、オーストラリア政府が、国内のCO2排出削減を、促進するために、2014年に、設立した、国家的なプログラムです。

その、最大の特徴は、政府自身が、カーボンクレジットの、主要な「買い手」となる、という点にあります。

ERFの、基本的な仕組み

  1. プロジェクトの登録:まず、国内の、企業や、土地所有者などが、CO2削減プロジェクト(植林、省エネ、廃棄物管理など)を、政府の「クリーンエネルギー規制当局」に、登録します。
  2. CO2削減量の算定と、クレジット発行:プロジェクトが、実際に、CO2を削減すると、その削減量に応じて、「ACCU(Australian Carbon Credit Unit)」という、オーストラリア独自の、カーボンクレジットが、発行されます。

    1 ACCUは、1トンのCO2削減量に、相当します。

  3. 政府による「リバース・オークション(逆オークション)」:ここが、最も、ユニークな部分です。

    政府は、定期的に、「リバース・オークション」を、開催します。

    これは、通常のオークションとは、逆に、プロジェクト実施者たちが、「自分たちのACCUを、1トンあたり、いくらの安値で、政府に売却できるか」を、入札するものです。

  4. 政府による、クレジットの買い取り:政府は、最も安い価格を、提示した事業者から、順番に、予算の範囲内で、ACCUを、買い取ります。

    そして、政府は、買い取ったACCUを、国の削減目標達成のために、無効化(リタイア)します。

ERFの、メリットと、近年の変化

メリット

【比較】各国の炭素価格、その違いはなぜ生まれる?日本の現在地は?

はじめに:CO2の「値段」、あなたの国では、おいくらですか?

「カーボンプライシング(炭素への価格付け)」の重要性が、世界中で、認識される中、その具体的な「値段」は、国や、地域によって、驚くほど、大きな差があります。

例えば、スウェーデンの炭素税は、1トンあたり、100ユーロを超える、高い水準である一方、多くの国では、まだ、数ユーロ程度に、留まっています。

なぜ、これほどまでに、CO2の「値段」は、異なるのでしょうか?

そして、日本の「炭素価格」は、世界の中で、どのような位置にいるのでしょうか。

今回は、各国の炭素価格の違いと、その背景にある、経済的・政治的な事情について、比較・解説します。

炭素価格を、決定する、主な要因

各国の炭素価格の水準は、主に、以下の要因の、複雑な組み合わせによって、決まります。

1. 政策目標の「野心度」

その国が、どれだけ、野心的な、CO2削減目標を、掲げているか。

これが、最も、基本的な決定要因です。

EUのように、「2030年までに、55%削減」といった、非常に高い目標を、法律で定めている地域では、その目標を達成するために、企業に対して、高い炭素価格を、課す必要が出てきます。

2. 経済への「影響」への配慮

炭素価格の導入は、エネルギー価格の上昇などを通じて、その国の、産業の国際競争力や、国民の生活に、短期的な「痛み」を、もたらす可能性があります。

特に、製造業への依存度が高い国や、エネルギーを、輸入に頼っている国では、産業界からの、強い抵抗が予想されるため、政府は、炭素価格を、低めに設定する、という、政治的な判断を、下しがちです。

3. エネルギー構成(電源構成)

その国が、どのような、エネルギー源に、依存しているかも、重要な要素です。

フランスのように、原子力発電の比率が高く、もともと、電力部門のCO2排出量が少ない国では、高い炭素価格を導入しても、経済への影響が、比較的小さく、導入のハードルが低くなります。

一方で、石炭火力への依存度が高い国では、高い炭素価格は、電力料金の、急激な高騰に、直結するため、慎重な判断が、求められます。

4. 国民の「支持」と「理解」

最終的に、炭素価格の導入と、その水準を、決定するのは、国民の、政治的な支持です。

北欧諸国のように、環境問題への、国民の意識が、非常に高く、政府への信頼も厚い国では、高い炭素税に対しても、国民的なコンセンサス(合意)が、得られやすい、という背景があります。

また、炭素税の税収を、社会保障の充実や、低所得者層への還付に、充てるなど、国民の理解を、得るための、工夫も、重要になります。

日本の「現在地」は?

では、日本の炭素価格は、世界的に見て、どのようなレベルにあるのでしょうか。

残念ながら、2024年現在、日本の、明示的な炭素価格(地球温暖化対策税など)は、1トンあたり、数百円程度と、国際的に見て、極めて低い水準にあります。

これは、上記で述べた、産業界への配慮や、エネルギー構成の問題などが、背景にあると考えられます。

しかし、政府は、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」政策の中で、今後は、本格的な、カーボンプライシングの導入を、段階的に、進めていく方針を、示しています。

具体的には、「排出量取引制度」と、「化石燃料の輸入事業者に対する、賦課金」を、組み合わせた、日本独自の制度の導入が、検討されています。

まとめ:価格差に、各国の「事情」が見える

各国の炭素価格の違い。

それは、単なる数字の差、というだけではありません。…

【海運・航空業界】国際輸送の脱炭素化とカーボンクレジットの役割

はじめに:国境を越える「排出源」を、どう捕まえるか

私たちの、グローバルな経済活動や、豊かな生活を支える、国際海運(コンテナ船など)と、国際航空(旅客機、貨物機)。

しかし、この二つのセクターは、合わせて、世界のCO2排出量の、約5%を占める、巨大な排出源でありながら、その対策が、非常に難しい、という、悩ましい課題を抱えています。

なぜなら、その活動が、特定の「国」に、帰属しない、国境を越えたものであるため、パリ協定のような、国別の削減目標の「枠外」に、置かれてきたからです。

今回は、この「捕まえどころのない」排出源の、脱炭素化に向けた、国際的な取り組みと、その中で、カーボンクレジットが、どのような、重要な役割を果たそうとしているのかを、解説します。

なぜ、海運・航空の脱炭素化は、難しいのか?

  • 技術的なハードル:船や、飛行機といった、巨大な輸送機器を、動かすためには、膨大なエネルギーが必要です。

    乗用車のように、簡単に、バッテリーEV(電気自動車)に、置き換えることはできません。

    水素や、アンモニア、持続可能な航空燃料(SAF)といった、次世代燃料の研究開発は、進められていますが、その実用化と、普及には、まだ、多くの時間と、コストがかかります。

  • 国際的な合意形成の難しさ:どの国の船籍か、どの国の航空会社か、どこで燃料を補給したか、など、その排出責任の所在が、複雑です。

    世界中の国々が、公平な形で、規制や、コストを、分担するための、国際的なルール作りには、多大な困難が伴います。

国際的な取り組みと、カーボンクレジットの役割

こうした困難な状況を、打開するため、国連の専門機関である、IMO(国際海事機関)と、ICAO(国際民間航空機関)が、それぞれ、業界全体の、CO2削減目標を掲げ、その達成のための、具体的な制度を、導入し始めています。

そして、その両方の制度において、カーボンクレジットによる「オフセット」が、当面の、重要な削減手段として、位置付けられているのです。

航空業界:CORSIA(コルシア)

ICAOが主導する、国際航空のための、カーボン・オフセットと、削減の仕組み(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)です。

  • 仕組み:参加国の航空会社は、基準年(2019年)からの、CO2排出増加分を、オフセットすることが、義務付けられます。
  • クレジットの役割:そのオフセットのために、利用が認められた、適格なカーボンクレジット(Eligible