循環型経済(サーキュラーエコノミー)とカーボンクレジットの繋がり

はじめに:捨てる、という概念を、捨てる

「大量生産・大量消費・大量廃棄」。

これは、20世紀の経済を支えてきた、一方通行の「直線型経済(リニアエコノミー)」のモデルです。

しかし、このモデルが、地球の資源を枯渇させ、大量のCO2を排出する原因となってきたことは、もはや言うまでもありません。

そこで今、注目されているのが、製品や資源を、廃棄することなく、繰り返し使い続ける「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」への移行です。

今回は、このサーキュラーエコノミーと、カーボンクレジットが、どのように連携し、持続可能な社会を実現するのかを解説します。

サーキュラーエコノミーとは?

サーキュラーエコノミーは、自然界の生態系のように、全てのものが無駄なく循環する経済システムを目指す考え方です。

その核となるのが、以下の「3R」の原則です。

  • リデュース (Reduce):そもそも、使う資源の量を減らす。

    製品の長寿命化など。

  • リユース (Reuse):製品や部品を、修理・再整備して、繰り返し使う。
  • リサイクル (Recycle):製品を原材料に戻し、新しい製品の素材として再生利用する。

サーキュラーエコノミーは、どうCO2を削減するのか?

サーキュラーエコノミーへの移行は、CO2削減に絶大な効果をもたらします。

  • 資源採掘・加工エネルギーの削減:新しい製品のために、地下から鉄鉱石や石油を採掘し、加工するには、莫大なエネルギーが必要です。

    リサイクル原料を使えば、この過程のエネルギーとCO2排出を大幅に削減できます。

    (例:アルミニウムは、リサイクル原料から作ると、新規原料から作るのに比べて95%のエネルギーを節約できます。

  • 廃棄物処理エネルギーの削減:製品をゴミとして焼却する際には、多くのCO2が排出されます。

    そもそもゴミを出さない仕組みにすることで、この排出をなくすことができます。

カーボンクレジットは、どう貢献するのか?

カーボンクレジットは、このサーキュラーエコノミーへの移行を、経済的に後押しする役割を果たします。

1. リサイクル事業などを、クレジットで支援する

例えば、発展途上国で、これまで野焼きされていたプラスチックごみを回収し、リサイクル原料として再生するプロジェクトがあったとします。

このプロジェクトは、プラスチックごみの不適切な処理によるCO2排出を「削減」したとして、カーボンクレジットを生み出すことができます。

私たちがそのクレジットを購入することで、その資金が、リサイクル工場の運営や、ごみを回収する人々の雇用を支え、サーキュラーエコノミーの輪を広げることに繋がるのです。

他にも、食品廃棄物をメタン発酵させてバイオガスを生成するプロジェクトなども、代表的な例です。

2.

気候変動だけじゃない!カーボンクレジットがもたらす「コベネフィット」とは?

はじめに:一杯で、二度おいしい。そんな貢献がある

カーボンクレジットを購入する主な目的は、もちろん「CO2を削減・吸収し、気候変動を食い止めること」です。

しかし、優れたプロジェクトは、その主目的に加えて、まるで美味しいコーヒーの「サイドメニュー」のように、地域社会や自然環境に対して、様々な「良いこと」を同時にもたらします。

この、副次的な良い効果のことを、専門用語で「コベネフィット(Co-benefits / 共同便益)」と呼びます。

今回は、このコベネフィットの世界を覗いてみましょう。

コベネフィットの具体例

プロジェクトの種類によって、生まれるコベネフィットは様々です。

【ケース1】途上国の「森林保護」プロジェクト

このプロジェクトは、CO2を吸収するだけでなく…。

  • 生物多様性の保全:そこに生息する希少な動植物のすみかを守ります。

    (SDGs目標15)

  • 雇用の創出:地域住民を森林パトロール隊員として雇用したり、エコツアーのガイドとして育成したりします。

    (SDGs目標8)

  • 貧困の削減:持続可能な農法を教えることで、地域の食料安全保障と安定した収入に繋がります。

    (SDGs目標1, 2)

【ケース2】アフリカの「安全な水」プロジェクト

このプロジェクトは、汚れた水を浄化するフィルターを普及させ、薪を燃やして水を煮沸殺菌する必要性をなくすことでCO2を削減するだけでなく…。

  • 健康と福祉の向上:汚染された水が原因で起こる病気から、特に子供たちの命を守ります。

    (SDGs目標3)

  • 教育の機会創出:これまで毎日何時間も水汲みに行っていた子供たちが、学校に通う時間を得られます。

    (SDGs目標4)

  • ジェンダー平等の推進:水汲みという重労働から女性を解放し、彼女たちが他の仕事や活動に参加する機会を創出します。

    (SDGs目標5)

【ケース3】インドの「再生可能エネルギー(風力発電)」プロジェクト

このプロジェクトは、化石燃料に代わるクリーンな電力を生み出すだけでなく…。

  • 大気汚染の改善:石炭火力発電所などから排出される、健康に有害な大気汚染物質を削減し、地域住民の呼吸器疾患のリスクを低減します。

    (SDGs目標3, 11)

  • エネルギーの安定供給:これまで頻繁に停電が起きていた地域に、安定した電力を供給し、地域の産業や教育の発展を支えます。