【品質の見極め方】質の高い「森林保全(REDD+)」プロジェクト、5つのチェックリスト

はじめに:玉石混交の「森」から、本物の「宝」を、見つけ出す

カーボンクレジット市場において、最も、人気があり、かつ、最も、議論の的となってきたのが、「REDD+(森林減少・劣化からの排出削減)」プロジェクトです。

その中には、ケニアの「カシガウ・コリドー」のような、素晴らしい成功事例もあれば、残念ながら、その効果や、持続可能性に、疑問符が付くような、質の低いプロジェクトも、存在します。

では、私たち、個人投資家は、この「玉石混交」の中から、いかにして、本当に、価値のある、質の高いREDD+プロジェクトを、見極めれば、良いのでしょうか。

今回は、そのための、具体的な「5つのチェックリスト」を、ご紹介します。

高品質なREDD+プロジェクト、5つのチェックリスト

✅ 1. ベースラインは、保守的で、説得力があるか?

REDD+の、CO2削減量は、「もし、プロジェクトがなかったら、どれだけの森林が、失われていたか」という「ベースライン」の、設定に、大きく依存します。

  • チェックポイント

    ・ベースラインの、設定方法は、透明性が高く、公開されているか?

    ・その地域の、過去の、森林減少のトレンドだけでなく、将来の、開発圧力(人口増加、道路建設計画など)も、考慮されているか?

    ・意図的に、森林破壊の予測を、過大に、見積もることで、クレジット量を、水増ししようとしていないか?

    その設定は、第三者から見ても、客観的で、説得力のあるものか?

✅ 2. リーケージ(漏出)への、対策は、十分か?

プロジェクトエリア内の、伐採を、止めた結果、その活動が、単に、隣のエリアに、移動(リーケージ)しただけでは、意味がありません。

  • チェックポイント

    ・プロジェクトは、リーケージのリスクを、認識し、その影響を、定量的に、評価しているか?

    ・削減量から、リーケージ分を、きちんと、差し引いているか?

    ・プロジェクトの、境界周辺地域まで含めて、広範囲な、モニタリングを、行っているか?

    ・伐採に、代わる、持続可能な、収入源を、地域住民に、提供することで、リーケージの、根本原因に、対処しようとしているか?

✅ 3. 地域コミュニティが、真の「パートナー」になっているか?

プロジェクトの、長期的な成功は、地域コミュニティとの、信頼関係なくして、あり得ません。

  • チェックポイント

    ・FPIC(自由で、事前の、十分な情報に基づく同意)の、プロセスは、適切に、実施されているか?

    ・プロジェクトの、意思決定の場に、地域住民の、代表は、参加しているか?

    ・クレジット販売による、収益の、分配メカニズムは、公平で、透明性が高いか?

    ・プロジェクトが、彼らの、伝統的な、土地の権利や、文化を、尊重しているか?

✅ 4. コベネフィットは、具体的で、測定可能か?

「生物多様性」や、「貧困削減」といった、コベネフィットは、プロジェクトの、価値を、大きく高めます。…

【未来の都市】「15分シティ」構想とは?歩いて暮らせる街が、世界を、救う

はじめに:私たちの、都市は、車のために、作られてきた

考えてみてください。

あなたの、毎日の生活は、どれだけ「移動」に、時間を、費やしていますか?

自宅から、職場へ。

職場から、スーパーへ。

スーパーから、子供の、学校へ。

20世紀の、都市計画は、住居、商業、職場といった、都市の、機能を、それぞれ、別の、エリアに「分離」し、その間を、自動車で、効率的に、移動することを、前提として、設計されてきました。

その結果、私たちは、移動に、多くの時間を、奪われ、コミュニティとの、繋がりは、希薄になり、そして、都市は、大量のCO2を、排出する、原因と、なってきました。

この、自動車中心の、都市の、あり方を、根本から、見直し、全ての、都市機能(住む、働く、学ぶ、楽しむ)に、自宅から「徒歩、または、自転車で、15分以内」に、アクセスできる、より、人間的で、持続可能な、都市を、目指そう、という、革新的な、都市計画の、コンセプト。

それが、「15分シティ(15-Minute City)」です。

15分シティの、6つの、基本機能

パリ市の、カルロス・モレノ教授が、提唱した、このコンセプトは、市民が、幸福な、都市生活を、送るために、不可欠な、6つの、社会機能を、近接させることを、目指します。

  1. 住む (Living):質の高い、手頃な、価格の、住宅。
  2. 働く (Working):職住近接を、可能にする、コワーキングスペースや、小規模オフィスの、分散配置。
  3. 買う (Supplying):食料品や、日用品が、手に入る、多様な、小規模店舗。
  4. 学ぶ (Learning):学校や、図書館、生涯学習の、機会。
  5. 楽しむ (Enjoying):公園、文化施設、レストラン、カフェといった、憩いと、交流の場。
  6. ケアする (Caring):病院、診療所、保育所、高齢者施設といった、医療・福祉サービス。

これらの機能が、モザイクのように、地域内に、配置され、人々は、もはや、長距離を、移動する、必要が、なくなるのです。

15分シティが、もたらす「三重の、利益」

この、都市の、再構築は、環境、経済、そして、社会の、三つの側面で、大きな、利益を、もたらします。

1. 環境的な、利益(エコロジカル)

【アプリ紹介】スマホで簡単!カーボンフットプリント計算&オフセットアプリ5選

はじめに:環境貢献を、もっと「スマート」に、もっと「楽しく」

「自分のCO2排出量を、知りたいけど、計算が面倒…」。

「気軽に、カーボン・オフセットを、試してみたいけど、どこでやればいいか、分からない」。

そんな、あなたの悩みを、解決してくれるのが、スマートフォンアプリです。

近年、個人のカーボンフットプリントを、簡単に計算し、そのまま、アプリ内で、オフセット(クレジット購入)まで、完結できる、便利なアプリが、世界中で、続々と登場しています。

今回は、そうした、サステナブルなライフスタイルを、ゲーム感覚で、サポートしてくれる、モバイルアプリの、主なタイプと、その魅力について、ご紹介します。

(※特定のアプリ名を、推奨するものではなく、一般的な機能の紹介となります。

カーボンオフセットアプリの、主な機能とタイプ

タイプ1:総合ライフスタイル記録型

日々の生活全般の、カーボンフットプリントを、記録・管理することに、重点を置いたアプリです。

  • 機能

    ・銀行口座や、クレジットカードと連携し、あなたの購買履歴から、自動で、カーボンフットプリントを計算してくれる、高度な機能を持つものもあります。

    ・食事(肉、野菜など)、移動(車、電車など)、買い物といった、カテゴリーごとに、あなたの排出量の内訳を、グラフなどで、分かりやすく「見える化」してくれます。

    ・月々の排出量の目標を設定し、達成度に応じて、ポイントが貰えたり、友達と、削減量を競ったりできる、ゲーミフィケーションの要素が、取り入れられていることが多いです。

  • 魅力:自分のライフスタイルを、客観的に、見つめ直す、良いきっかけになります。

タイプ2:移動(フライト・ドライブ)特化型

特に、CO2排出量が大きい、飛行機や、自動車での移動に、特化して、オフセットを行うための、シンプルなアプリです。

  • 機能

    ・フライトの出発地と、目的地を入力するだけで、CO2排出量を、即座に計算してくれます。

    ・GPSと連携し、あなたのドライブの距離を、自動で記録し、その分の排出量を、オフセットする機能を持つものもあります。

  • 魅力:旅行や、出張の際に、その都度、必要な分だけ、手軽に、オフセットを実践したい、という人に、最適です。

タイプ3:サブスクリプション(月額定額)型

毎月、決まった金額を支払うことで、「あなたの月々の生活を、カーボンニュートラルにします」ということを、約束してくれる、サブスクリプションモデルのサービスです。

  • 機能

    ・いくつかの料金プラン(例:月額500円、1,000円、3,000円など)が用意されており、あなたのライフスタイルや、貢献したい度合いに応じて、選ぶことができます。

    ・支払った金額が、どのようなポートフォリオ(森林保護、再エネなど)の、カーボンクレジットプロジェクトに、投資されたかを、定期的に、レポートしてくれます。

  • 魅力:「一度、設定してしまえば、あとは、お任せ」で、自動的に、環境貢献が続けられる、手軽さが魅力です。

    積立投資の感覚に、近いかもしれません。

タイプ4:企業・店舗連携ポイント型

提携している、サステナブルな商品や、サービスを、購入したり、特定のエコなアクション(マイボトルの利用など)を、行ったりすると、アプリ内のポイントが貯まり、そのポイントを、カーボンクレジットに交換できる、というタイプのアプリです。

  • 魅力:現金を使わずに、日々の「善い行い」を、環境価値に、直接、転換できる、楽しさがあります。

    企業のマーケティング活動と、連携していることが多いです。

【最終回?】この、連載は、どこへ、向かうのか。読者の、皆さんと、共に、創る、未来

はじめに:終わりなき、探求の、旅

2025年7月23日に、始まり、一日も、休むことなく、続いてきた、この、カーボンクレジットを、巡る、長い、長い、旅。

当初の、予定では、前々回が「最終回」であり、前回が「付録」の、はずでした。

しかし、ありがたいことに、多くの、読者の皆さんから「続けてほしい」という、熱い、声を、いただき、私たちの、旅は、まだ、続いています。

この、連載は、もはや、私一人が、書いているものでは、ありません。

それは、読者の、皆さんの、知的な、好奇心と、未来への、熱意に、支えられ、共に、創り上げていく「共有の、探求の場」へと、進化しました。

そこで、今回は、少し、趣向を、変えて、この、連載が、これから、どこへ、向かうべきか、その「未来の、目次」を、読者の、皆さんと、一緒に、考えてみたいと、思います。

これから、探求したい「新しい、フロンティア」

これまでの、連載で、私たちは、カーボン市場の、主要な、論点を、ほぼ、網羅してきました。

しかし、世界は、常に、動いています。

まだ、私たちが、十分に、光を、当てていない、重要で、エキサイティングな「フロンティア」が、数多く、残されています。

以下に、私が、今後、皆さんと、一緒に、探求してみたい、テーマの、候補を、いくつか、挙げてみます。

テーマ案1:ディープダイブ – 特定の「方法論」を、徹底解剖する

これまでは、REDD+や、IFMといった、大きな、カテゴリーで、見てきましたが、その中には、さらに、何十もの、詳細な「方法論」が、存在します。

その中から、特に、重要で、興味深い、方法論(例:Verraの、VM0042 – マングローブ再生)を、一つ、選び出し、その、PDDを、読み解きながら、CO2削減量の、具体的な、計算方法や、モニタリングの、実際を、ケーススタディとして、徹底的に、深掘りする、シリーズ。

テーマ案2:世界の、政策ウォッチ – 各国の「気候変動政策」の、今

EUの「Fit for 55」、米国の「インフレ抑制法(IRA)」、そして、日本の「GX推進戦略」。

世界中の、主要国が、今、どのような、気候変動政策を、打ち出し、それが、国内の、産業や、カーボン市場に、どのような、影響を、与えているのか。

各国の、具体的な、政策を、比較・分析していく、シリーズ。

テーマ案3:企業の、リアル – 先進企業の「サステナビリティ担当者」インタビュー

実際に、企業の、最前線で、サステナビリティ戦略や、カーボンクレジット調達に、奮闘している、担当者の方に(架空の)インタビューを、行い、その、リアルな、課題、悩み、そして、やりがいについて、語っていただく、シリーズ。

企業の「中の人」の、視点から、理論と、現実の、ギャップを、学びます。

テーマ案4:未来の、テクノロジー図鑑

人工光合成、ダイレクト・オーシャン・キャプチャー、バイオエンジニアリング…。

まだ、SFの、世界に、あるような、しかし、気候変動の、ゲームチェンジャーと、なりうる、最先端の、フロンティア技術の、科学的な、原理や、最新の、研究開発動向を、一つ一つ、詳しく、紹介していく、シリーズ。

あなたの「声」が、次の、行き先を、決める

ここに、挙げたのは、あくまで、一例です。

この、連載の、未来は、白紙の、地図です。

その、地図を、どのような、魅力的な、探求の、航路で、埋めていくか。

その、鍵を、握っているのは、読者である、あなた、一人ひとりです。…

循環型経済(サーキュラーエコノミー)とカーボンクレジットの繋がり

はじめに:捨てる、という概念を、捨てる

「大量生産・大量消費・大量廃棄」。

これは、20世紀の経済を支えてきた、一方通行の「直線型経済(リニアエコノミー)」のモデルです。

しかし、このモデルが、地球の資源を枯渇させ、大量のCO2を排出する原因となってきたことは、もはや言うまでもありません。

そこで今、注目されているのが、製品や資源を、廃棄することなく、繰り返し使い続ける「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」への移行です。

今回は、このサーキュラーエコノミーと、カーボンクレジットが、どのように連携し、持続可能な社会を実現するのかを解説します。

サーキュラーエコノミーとは?

サーキュラーエコノミーは、自然界の生態系のように、全てのものが無駄なく循環する経済システムを目指す考え方です。

その核となるのが、以下の「3R」の原則です。

  • リデュース (Reduce):そもそも、使う資源の量を減らす。

    製品の長寿命化など。

  • リユース (Reuse):製品や部品を、修理・再整備して、繰り返し使う。
  • リサイクル (Recycle):製品を原材料に戻し、新しい製品の素材として再生利用する。

サーキュラーエコノミーは、どうCO2を削減するのか?

サーキュラーエコノミーへの移行は、CO2削減に絶大な効果をもたらします。

  • 資源採掘・加工エネルギーの削減:新しい製品のために、地下から鉄鉱石や石油を採掘し、加工するには、莫大なエネルギーが必要です。

    リサイクル原料を使えば、この過程のエネルギーとCO2排出を大幅に削減できます。

    (例:アルミニウムは、リサイクル原料から作ると、新規原料から作るのに比べて95%のエネルギーを節約できます。

  • 廃棄物処理エネルギーの削減:製品をゴミとして焼却する際には、多くのCO2が排出されます。

    そもそもゴミを出さない仕組みにすることで、この排出をなくすことができます。

カーボンクレジットは、どう貢献するのか?

カーボンクレジットは、このサーキュラーエコノミーへの移行を、経済的に後押しする役割を果たします。

1. リサイクル事業などを、クレジットで支援する

例えば、発展途上国で、これまで野焼きされていたプラスチックごみを回収し、リサイクル原料として再生するプロジェクトがあったとします。

このプロジェクトは、プラスチックごみの不適切な処理によるCO2排出を「削減」したとして、カーボンクレジットを生み出すことができます。

私たちがそのクレジットを購入することで、その資金が、リサイクル工場の運営や、ごみを回収する人々の雇用を支え、サーキュラーエコノミーの輪を広げることに繋がるのです。

他にも、食品廃棄物をメタン発酵させてバイオガスを生成するプロジェクトなども、代表的な例です。

2.

【海運・航空業界】国際輸送の脱炭素化とカーボンクレジットの役割

はじめに:国境を越える「排出源」を、どう捕まえるか

私たちの、グローバルな経済活動や、豊かな生活を支える、国際海運(コンテナ船など)と、国際航空(旅客機、貨物機)。

しかし、この二つのセクターは、合わせて、世界のCO2排出量の、約5%を占める、巨大な排出源でありながら、その対策が、非常に難しい、という、悩ましい課題を抱えています。

なぜなら、その活動が、特定の「国」に、帰属しない、国境を越えたものであるため、パリ協定のような、国別の削減目標の「枠外」に、置かれてきたからです。

今回は、この「捕まえどころのない」排出源の、脱炭素化に向けた、国際的な取り組みと、その中で、カーボンクレジットが、どのような、重要な役割を果たそうとしているのかを、解説します。

なぜ、海運・航空の脱炭素化は、難しいのか?

  • 技術的なハードル:船や、飛行機といった、巨大な輸送機器を、動かすためには、膨大なエネルギーが必要です。

    乗用車のように、簡単に、バッテリーEV(電気自動車)に、置き換えることはできません。

    水素や、アンモニア、持続可能な航空燃料(SAF)といった、次世代燃料の研究開発は、進められていますが、その実用化と、普及には、まだ、多くの時間と、コストがかかります。

  • 国際的な合意形成の難しさ:どの国の船籍か、どの国の航空会社か、どこで燃料を補給したか、など、その排出責任の所在が、複雑です。

    世界中の国々が、公平な形で、規制や、コストを、分担するための、国際的なルール作りには、多大な困難が伴います。

国際的な取り組みと、カーボンクレジットの役割

こうした困難な状況を、打開するため、国連の専門機関である、IMO(国際海事機関)と、ICAO(国際民間航空機関)が、それぞれ、業界全体の、CO2削減目標を掲げ、その達成のための、具体的な制度を、導入し始めています。

そして、その両方の制度において、カーボンクレジットによる「オフセット」が、当面の、重要な削減手段として、位置付けられているのです。

航空業界:CORSIA(コルシア)

ICAOが主導する、国際航空のための、カーボン・オフセットと、削減の仕組み(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)です。

  • 仕組み:参加国の航空会社は、基準年(2019年)からの、CO2排出増加分を、オフセットすることが、義務付けられます。
  • クレジットの役割:そのオフセットのために、利用が認められた、適格なカーボンクレジット(Eligible

2030年に向けた展望:カーボンクレジットがもたらす社会変革

はじめに:10年後の「当たり前」を、今、想像する

2030年。

国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成年であり、多くの国や企業が、CO2排出削減の中間目標として掲げる、重要な節目です。

その時、カーボンクレジットは、私たちの社会や生活の中で、どのような役割を果たしているのでしょうか。

今回は、少し未来に目を向け、2030年の社会を想像しながら、カーボンクレジットがもたらすであろう社会変革について展望します。

2030年の社会:カーボンクレジットは「インフラ」になる

2030年、カーボンクレジットは、一部の投資家や環境意識の高い人だけのものではなく、社会の様々な場面に溶け込んだ「インフラ」のような存在になっているでしょう。

変革1:個人の「炭素口座」が当たり前に

銀行の預金口座と同じように、すべての個人が、自分のCO2排出・吸収量を管理する「パーソナル炭素口座」を持つのが当たり前になります。

  • 収入(預入):自宅の太陽光発電で余った電力を売ったり、省エネ家電に買い替えたり、植林活動に参加したりすることで、自分の口座に「クレジット(吸収量)」が貯まっていきます。
  • 支出(引出):飛行機に乗ったり、ガソリンを使ったりすると、その分の「排出量」が口座から自動的に引き落とされます(オフセットされます)。

この口座の残高は、個人の環境貢献度を示す指標となり、残高が多い人には、ローンの金利が優遇されたり、特別なサービスが受けられたりといった、社会的なインセンティブが与えられるようになります。

変革2:商品の値札に「環境コスト」が表示される

スーパーに並ぶ商品の値札には、円やドルといった「通貨価格」と並んで、その商品が作られ、運ばれてくるまでにかかった「環境コスト(CO2排出量)」が表示されるようになります。

消費者は、価格だけでなく、環境コストも比較して、商品を選ぶのが当たり前になります。

これにより、企業間では、いかにCO2排出の少ない、サステナブルな製品を作るか、という新しい競争が生まれます。

「安かろう、悪かろう」ならぬ、「安かろう、環境に負荷をかけ過ぎだろう」という価値観が、消費のスタンダードになるのです。

変革3:国境を越えた「貢献の可視化」

ブロックチェーン技術のさらなる進化により、カーボンクレジットの取引は、より透明で、グローバルなものになります。

日本の個人が、アフリカの小さな村で行われている井戸掘りプロジェクト(薪を燃やして水を煮沸殺菌する必要がなくなるため、CO2削減に繋がる)のクレジットを、スマートフォンで簡単に購入できるようになります。

そして、その購入資金が、どのように使われ、現地の人々の生活をどう変えたかまでを、リアルタイムに近い形で追跡できるようになります。

私たちの「貢献したい」という思いが、国境を越えて、ダイレクトに届く。

そんな、顔の見える国際協力が、当たり前の社会になっているでしょう。

まとめ:私たちが、その未来の創造者である

ここで描いた2030年の姿は、単なる夢物語ではありません。

その未来を形作る技術や仕組みは、すでに、今、この瞬間にも生まれ、進化を続けています。

そして最も重要なのは、私たち一人ひとりが、今、カーボンクレジットに関心を持ち、学び、参加することが、この社会変革を加速させる、最も大きな力になるということです。

10年後の「当たり前」を、他人任せにするのではなく、自らの手で、今日から創造していきませんか。…

【企業の適応戦略】「気候変動と人材戦略」:優秀な人材を惹きつけ、定着させるには?

はじめに:Z世代は会社を「選ぶ」

「給料が高いから」。

「安定しているから」。

かつて、多くの人が会社を選ぶ主要な理由だったこれらの要素は、今、特にZ世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)を中心とする若い世代にとって、もはや絶対的なものではありません。

彼らが会社を選ぶ最も重要な基準の一つ。

それは、その会社が社会に対してどのような「パーパス(存在意義)」を持っているのか、そして気候変動という人類共通の課題に対してどれだけ「本気」で取り組んでいるのかです。

気候変動は、もはや企業の、人材戦略において無視できない重要な要素となっています。

今回は、企業が優秀な人材を惹きつけ、定着させるために、気候変動にどう向き合うべきか、その戦略について解説します。

気候変動が人材戦略に与える3つの影響

1. 採用競争力の低下

気候変動対策に消極的な企業は、優秀な人材から選ばれなくなります。

  • Z世代の価値観:彼らは生まれた時から気候変動の危機を知っており、社会課題への意識が非常に高いです。

    自分の働く会社が地球環境に負の影響を与えていると知れば、そこで働くことに強い抵抗を感じます。

  • 「クライメート・クイッティング」の増加:すでに、入社している従業員が、自社の気候変動への姿勢に失望し、「静かな退職(Quiet Quitting)」や、実際に退職してしまうという現象が起きています。

2. 従業員のエンゲージメントの低下

気候変動への取り組みが不十分な企業では、従業員の仕事への熱意や貢献意欲が低下します。

  • パーパスの欠如:自分の仕事が社会に貢献しているという実感が持てず、仕事へのモチベーションが低下します。
  • 倫理的ジレンマ:環境に配慮したいという個人の価値観と、会社の事業活動との間で倫理的なジレンマを抱え、ストレスを感じます。

3. スキルギャップの拡大

脱炭素化への移行は、新しい技術やビジネスモデルを生み出し、それに、対応できる新しいスキルを必要とします。

  • リスキリングの遅れ:企業が従業員のリスキリング(学び直し)を怠れば、必要なスキルを持つ人材が不足し、事業の変革が遅れます。

気候変動を人材戦略の「武器」にする3つの戦略

1. 野心的な「パーパス」を掲げ、行動する

単なる利益追求だけでなく、気候変動という人類共通の課題解決に貢献するという明確な「パーパス」を掲げ、それを言葉だけでなく具体的な行動で示すこと。

  • SBTi認定のネットゼロ目標:科学的根拠に基づく野心的な削減目標を設定し、その移行計画を透明性高く開示する。
  • 質の高いカーボンクレジットの活用:自社の削減努力を最大限行った上で、残余排出量を質の高い除去クレジットで中和する。

【未来の仕事】「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」は、日本の、産業と、雇用を、どう、変えるか?

はじめに:危機を「成長の、エンジン」へと、転換する、国家戦略

「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」。

この、言葉を、近年、日本の、ニュースで、頻繁に、耳にするように、なりました。

これは、単なる、環境対策の、スローガンでは、ありません。

気候変動という、深刻な「危機」を、逆手にとって、それを、日本の、新しい「産業競争力の、強化」と「経済成長の、エンジン」へと、転換していこう、という、極めて、戦略的な、国家ビジョンです。

政府は、今後10年間で、150兆円を、超える、官民の、GX投資を、実現する、という、野心的な、目標を、掲げています。

この、巨大な、産業構造の、転換は、日本の「仕事」の、あり方を、根底から、変え、新しい、大量の「雇用」を、生み出す、可能性を、秘めています。

今回は、この、GXが、日本の、産業と、雇用に、もたらす、未来について、考えてみましょう。

GXが、注力する、主要な「産業分野」

政府の「GX実現に向けた基本方針」などでは、特に、以下の分野での、集中的な、投資と、技術開発が、掲げられています。

  • 徹底した、省エネルギーの、推進:日本の、優れた、省エネ技術を、さらに、磨き上げ、産業部門や、家庭部門の、エネルギー効率を、極限まで、高める。
  • 再生可能エネルギーの、主力電源化:洋上風力発電を、中心に、太陽光、地熱といった、国産の、クリーンエネルギーの、導入を、最大限、加速させる。
  • 水素・アンモニアの、社会実装:発電や、輸送、産業分野で、次世代燃料である、水素や、アンモニアを、活用するための、サプライチェーンを、構築する。
  • 自動車産業の、電動化:電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の、開発・普及を、強力に、推進する。
  • 蓄電池産業の、育成:EVや、電力網に、不可欠な、高性能な「蓄電池」の、国内での、製造基盤を、確立し、国際競争力を、高める。
  • 炭素除去(ネガティブエミッション)技術:DAC(直接空気回収)や、バイオマスCCS(二酸化炭素回収・貯留)といった、CO2を、除去する、革新的な、技術の、研究開発と、実用化。
  • 循環型経済(サーキュラーエコノミー)への、移行:資源の、リサイクルや、代替素材の、開発を、進める。

生まれる「新しい仕事」、求められる「新しいスキル」

この、産業の、大転換は、これまでの、仕事を、奪う、側面も、ありますが、それ以上に、多くの、新しい「グリーン・ジョブ」を、創出します。

需要が、高まる職種の例

  • 技術者・研究者:再エネ、蓄電池、水素、炭素除去といった、GX関連技術の、研究開発、設計、製造、保守管理を、担う、エンジニアや、科学者。
  • デジタル人材:スマートグリッドや、VPPを、制御する、ITエンジニア、エネルギー需要を、予測する、データサイエンティスト。
  • 金融・ビジネスプロフェッショナル:GX分野の、プロジェクトに、資金を、供給する、サステナブル・ファイナンスの、専門家、企業の、GX戦略を、支援する、コンサルタント。
  • 現場の、技能労働者:洋上風力発電所を、建設・維持する、作業員、住宅の、断熱改修を、行う、建設技能者、EVの、整備士。

求められる、スキルの変化

同時に、既存の、職業においても、新しい「スキル」が、求められるようになります。

例えば、自動車の、整備士は、エンジンの、知識だけでなく、バッテリーや、電気回路の、知識が、必要になります。

金融アナリストは、企業の、財務諸表だけでなく、その、気候変動リスクや、移行計画を、読み解く、能力が、求められます。

全ての、働く人にとって、気候変動や、サステナビリティに関する、基本的な、リテラシーを、身につけ、自らの、スキルを、アップデートしていく「リスキリング(学び直し)」が、不可欠な、時代となるのです。…

【事例研究】プロジェクトの成功と失敗、その分かれ道はどこにある?

はじめに:光と影から学ぶ、本物の価値

カーボンクレジット市場には、途上国の貧困を救い、豊かな自然を再生させる、数多くの素晴らしい「成功事例」が存在します。

しかしその一方で、計画がずさんだったり、地域住民との対立を招いたりして、期待された成果を上げられなかった「失敗事例」も、残念ながら存在します。

今回は、具体的な(架空の)成功事例と失敗事例を比較研究することで、プロジェクトの価値を左右する、本質的な要因はどこにあるのかを探ります。

光と影、その両方を知ることで、あなたのプロジェクト選定眼は、より確かなものになるはずです。

【成功事例】A国の「持続可能なアグロフォレストリー」プロジェクト

  • 概要:かつては違法な焼畑農業で劣化していた土地で、地域住民と協力し、カカオやコーヒーといった換金作物を、現地の樹木と組み合わせて育てる「アグロフォレストリー(森林農業)」を導入。
  • 成功の要因

    1. 地域住民が「主役」:プロジェクト開発者は、外部から一方的にルールを押し付けるのではなく、何ヶ月もかけて住民と対話し、彼らの伝統的な知識を尊重しながら、新しい農法を一緒に作り上げていきました。

    プロジェクトのオーナーシップ(当事者意識)が、住民の間に芽生えました。

    2. 短期・長期の収入源を確保:クレジット販売による収益だけでなく、数年で収穫できるカカオやコーヒーが、住民の安定した現金収入となりました。

    「森を守ることが、自分たちの生活を豊かにする」という実感が、持続的な活動の基盤となりました。

    3. 透明性の高い情報公開:プロジェクトの進捗や、収益の分配方法は、定期的に住民に公開され、誰もがアクセスできる村の掲示板にも貼り出されました。

    これにより、開発者と住民の間に、強い信頼関係が築かれました。

【失敗事例】B国の「大規模植林」プロジェクト

  • 概要:外国資本が、広大な土地を借り上げ、成長の早い外来種の樹木を、大規模かつ均一に植林するプロジェクト。

    短期間で多くのCO2を吸収できる、と謳っていました。

  • 失敗の要因

    1. 地域住民の「不在」:開発者は、政府とのトップダウンの合意だけでプロジェクトを進め、その土地を昔から利用してきた地域住民の声をほとんど聞きませんでした。

    住民は、自分たちの生活の場を奪われた、と感じ、プロジェクトに非協力的な姿勢をとるようになりました。

    2. 生態系への無配慮:その土地の生態系に合わない外来種を、単一的に植林したため、土壌が乾燥し、在来の昆虫や鳥たちが姿を消してしまいました。

    生物多様性が損なわれ、数年後には、病虫害の発生で、多くの木が枯れてしまいました。

    3. 短期的な利益の追求:開発者の目的は、あくまで「早く、安く」クレジットを生成し、販売することでした。

    プロジェクトの長期的な持続可能性や、地域社会への貢献といった視点が、決定的に欠けていました。