はじめに:政府が「買い手」となる、ユニークな市場
世界のカーボンクレジット市場は、企業や個人が、自主的に取引を行う「ボランタリー市場」だけでは、ありません。
国によっては、政府が、独自の制度を、設計・運営し、市場で、中心的な役割を、果たしているケースがあります。
その、最も、ユニークで、先進的な事例の一つが、オーストラリアの「排出削減基金(ERF – Emissions Reduction Fund)」です。
今回は、このERFと、そこで取引される、「ACCU(アキュ)」と呼ばれる、独自のカーボンクレジットの仕組みについて、解説します。
他の国の制度を、知ることは、日本の、未来の制度設計を、考える上でも、重要なヒントを、与えてくれます。
排出削減基金(ERF)とは?
ERFは、オーストラリア政府が、国内のCO2排出削減を、促進するために、2014年に、設立した、国家的なプログラムです。
その、最大の特徴は、政府自身が、カーボンクレジットの、主要な「買い手」となる、という点にあります。
ERFの、基本的な仕組み
- プロジェクトの登録:まず、国内の、企業や、土地所有者などが、CO2削減プロジェクト(植林、省エネ、廃棄物管理など)を、政府の「クリーンエネルギー規制当局」に、登録します。
- CO2削減量の算定と、クレジット発行:プロジェクトが、実際に、CO2を削減すると、その削減量に応じて、「ACCU(Australian Carbon Credit Unit)」という、オーストラリア独自の、カーボンクレジットが、発行されます。
1 ACCUは、1トンのCO2削減量に、相当します。
- 政府による「リバース・オークション(逆オークション)」:ここが、最も、ユニークな部分です。
政府は、定期的に、「リバース・オークション」を、開催します。
これは、通常のオークションとは、逆に、プロジェクト実施者たちが、「自分たちのACCUを、1トンあたり、いくらの安値で、政府に売却できるか」を、入札するものです。
- 政府による、クレジットの買い取り:政府は、最も安い価格を、提示した事業者から、順番に、予算の範囲内で、ACCUを、買い取ります。
そして、政府は、買い取ったACCUを、国の削減目標達成のために、無効化(リタイア)します。
ERFの、メリットと、近年の変化
メリット
- プロジェクトへの、安定した収入保証:プロジェクト開発者は、政府との間で、長期の売買契約を、結ぶことができます。
これにより、将来の、安定した収入が、見込めるため、安心して、大規模な初期投資を、行うことができます。
- 国内の、多様な削減努力の、促進:農業、土地利用、廃棄物、エネルギーなど、国内の、幅広い分野での、CO2削減プロジェクトの、創出を、強力に、後押しします。
近年の変化:「任意参加」から、「義務」へ
当初、ERFは、あくまで、任意参加の、プログラムでした。
しかし、オーストラリア政府は、近年、気候変動対策を、さらに強化するため、「セーフガード・メカニズム」という、制度を、導入・強化しました。
これは、国内の、大規模な排出事業者(鉱山、工場など)に対して、CO2排出量の上限(ベースライン)を設定し、それを超えた場合に、ペナルティを課す、というものです。
そして、排出量が、上限を超えてしまった企業は、その超過分を、市場で「ACCU」を購入して、相殺することが、認められています。
これにより、ACCUの需要は、これまでの「政府」に加えて、「民間企業」にも、大きく広がり、取引が、活発化しています。
政府が、市場を「創り」、民間が、市場を「動かす」、という、新しいフェーズに、入ったのです。
まとめ:政府の「本気度」が、市場を創る
オーストラリアのERFとACCUの事例は、政府が、いかにして、国内のカーボン市場を、ゼロから、創り出し、育てていくことができるか、その、一つの、成功モデルを、示しています。
政府が、自ら「買い手」として、リスクを取り、市場に、安定した需要を、提供すること。
そして、徐々に、民間の、義務的な需要を、創出していくこと。
この、巧みな制度設計は、今後、日本が、独自の排出量取引制度などを、設計していく上で、非常に、参考になる、アプローチと言えるでしょう。
世界の、ユニークな制度を、学ぶこと。
それは、私たちが、自国の、気候変動政策の、未来を、より、深く、多角的に、考えるための、貴重な「鏡」となるのです。