【海運・航空業界】国際輸送の脱炭素化とカーボンクレジットの役割

はじめに:国境を越える「排出源」を、どう捕まえるか

私たちの、グローバルな経済活動や、豊かな生活を支える、国際海運(コンテナ船など)と、国際航空(旅客機、貨物機)。

しかし、この二つのセクターは、合わせて、世界のCO2排出量の、約5%を占める、巨大な排出源でありながら、その対策が、非常に難しい、という、悩ましい課題を抱えています。

なぜなら、その活動が、特定の「国」に、帰属しない、国境を越えたものであるため、パリ協定のような、国別の削減目標の「枠外」に、置かれてきたからです。

今回は、この「捕まえどころのない」排出源の、脱炭素化に向けた、国際的な取り組みと、その中で、カーボンクレジットが、どのような、重要な役割を果たそうとしているのかを、解説します。

なぜ、海運・航空の脱炭素化は、難しいのか?

  • 技術的なハードル:船や、飛行機といった、巨大な輸送機器を、動かすためには、膨大なエネルギーが必要です。

    乗用車のように、簡単に、バッテリーEV(電気自動車)に、置き換えることはできません。

    水素や、アンモニア、持続可能な航空燃料(SAF)といった、次世代燃料の研究開発は、進められていますが、その実用化と、普及には、まだ、多くの時間と、コストがかかります。

  • 国際的な合意形成の難しさ:どの国の船籍か、どの国の航空会社か、どこで燃料を補給したか、など、その排出責任の所在が、複雑です。

    世界中の国々が、公平な形で、規制や、コストを、分担するための、国際的なルール作りには、多大な困難が伴います。

国際的な取り組みと、カーボンクレジットの役割

こうした困難な状況を、打開するため、国連の専門機関である、IMO(国際海事機関)と、ICAO(国際民間航空機関)が、それぞれ、業界全体の、CO2削減目標を掲げ、その達成のための、具体的な制度を、導入し始めています。

そして、その両方の制度において、カーボンクレジットによる「オフセット」が、当面の、重要な削減手段として、位置付けられているのです。

航空業界:CORSIA(コルシア)

ICAOが主導する、国際航空のための、カーボン・オフセットと、削減の仕組み(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)です。

  • 仕組み:参加国の航空会社は、基準年(2019年)からの、CO2排出増加分を、オフセットすることが、義務付けられます。
  • クレジットの役割:そのオフセットのために、利用が認められた、適格なカーボンクレジット(Eligible

2030年に向けた展望:カーボンクレジットがもたらす社会変革

はじめに:10年後の「当たり前」を、今、想像する

2030年。

国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成年であり、多くの国や企業が、CO2排出削減の中間目標として掲げる、重要な節目です。

その時、カーボンクレジットは、私たちの社会や生活の中で、どのような役割を果たしているのでしょうか。

今回は、少し未来に目を向け、2030年の社会を想像しながら、カーボンクレジットがもたらすであろう社会変革について展望します。

2030年の社会:カーボンクレジットは「インフラ」になる

2030年、カーボンクレジットは、一部の投資家や環境意識の高い人だけのものではなく、社会の様々な場面に溶け込んだ「インフラ」のような存在になっているでしょう。

変革1:個人の「炭素口座」が当たり前に

銀行の預金口座と同じように、すべての個人が、自分のCO2排出・吸収量を管理する「パーソナル炭素口座」を持つのが当たり前になります。

  • 収入(預入):自宅の太陽光発電で余った電力を売ったり、省エネ家電に買い替えたり、植林活動に参加したりすることで、自分の口座に「クレジット(吸収量)」が貯まっていきます。
  • 支出(引出):飛行機に乗ったり、ガソリンを使ったりすると、その分の「排出量」が口座から自動的に引き落とされます(オフセットされます)。

この口座の残高は、個人の環境貢献度を示す指標となり、残高が多い人には、ローンの金利が優遇されたり、特別なサービスが受けられたりといった、社会的なインセンティブが与えられるようになります。

変革2:商品の値札に「環境コスト」が表示される

スーパーに並ぶ商品の値札には、円やドルといった「通貨価格」と並んで、その商品が作られ、運ばれてくるまでにかかった「環境コスト(CO2排出量)」が表示されるようになります。

消費者は、価格だけでなく、環境コストも比較して、商品を選ぶのが当たり前になります。

これにより、企業間では、いかにCO2排出の少ない、サステナブルな製品を作るか、という新しい競争が生まれます。

「安かろう、悪かろう」ならぬ、「安かろう、環境に負荷をかけ過ぎだろう」という価値観が、消費のスタンダードになるのです。

変革3:国境を越えた「貢献の可視化」

ブロックチェーン技術のさらなる進化により、カーボンクレジットの取引は、より透明で、グローバルなものになります。

日本の個人が、アフリカの小さな村で行われている井戸掘りプロジェクト(薪を燃やして水を煮沸殺菌する必要がなくなるため、CO2削減に繋がる)のクレジットを、スマートフォンで簡単に購入できるようになります。

そして、その購入資金が、どのように使われ、現地の人々の生活をどう変えたかまでを、リアルタイムに近い形で追跡できるようになります。

私たちの「貢献したい」という思いが、国境を越えて、ダイレクトに届く。

そんな、顔の見える国際協力が、当たり前の社会になっているでしょう。

まとめ:私たちが、その未来の創造者である

ここで描いた2030年の姿は、単なる夢物語ではありません。

その未来を形作る技術や仕組みは、すでに、今、この瞬間にも生まれ、進化を続けています。

そして最も重要なのは、私たち一人ひとりが、今、カーボンクレジットに関心を持ち、学び、参加することが、この社会変革を加速させる、最も大きな力になるということです。

10年後の「当たり前」を、他人任せにするのではなく、自らの手で、今日から創造していきませんか。…

【企業の適応戦略】「気候変動と人材戦略」:優秀な人材を惹きつけ、定着させるには?

はじめに:Z世代は会社を「選ぶ」

「給料が高いから」。

「安定しているから」。

かつて、多くの人が会社を選ぶ主要な理由だったこれらの要素は、今、特にZ世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)を中心とする若い世代にとって、もはや絶対的なものではありません。

彼らが会社を選ぶ最も重要な基準の一つ。

それは、その会社が社会に対してどのような「パーパス(存在意義)」を持っているのか、そして気候変動という人類共通の課題に対してどれだけ「本気」で取り組んでいるのかです。

気候変動は、もはや企業の、人材戦略において無視できない重要な要素となっています。

今回は、企業が優秀な人材を惹きつけ、定着させるために、気候変動にどう向き合うべきか、その戦略について解説します。

気候変動が人材戦略に与える3つの影響

1. 採用競争力の低下

気候変動対策に消極的な企業は、優秀な人材から選ばれなくなります。

  • Z世代の価値観:彼らは生まれた時から気候変動の危機を知っており、社会課題への意識が非常に高いです。

    自分の働く会社が地球環境に負の影響を与えていると知れば、そこで働くことに強い抵抗を感じます。

  • 「クライメート・クイッティング」の増加:すでに、入社している従業員が、自社の気候変動への姿勢に失望し、「静かな退職(Quiet Quitting)」や、実際に退職してしまうという現象が起きています。

2. 従業員のエンゲージメントの低下

気候変動への取り組みが不十分な企業では、従業員の仕事への熱意や貢献意欲が低下します。

  • パーパスの欠如:自分の仕事が社会に貢献しているという実感が持てず、仕事へのモチベーションが低下します。
  • 倫理的ジレンマ:環境に配慮したいという個人の価値観と、会社の事業活動との間で倫理的なジレンマを抱え、ストレスを感じます。

3. スキルギャップの拡大

脱炭素化への移行は、新しい技術やビジネスモデルを生み出し、それに、対応できる新しいスキルを必要とします。

  • リスキリングの遅れ:企業が従業員のリスキリング(学び直し)を怠れば、必要なスキルを持つ人材が不足し、事業の変革が遅れます。

気候変動を人材戦略の「武器」にする3つの戦略

1. 野心的な「パーパス」を掲げ、行動する

単なる利益追求だけでなく、気候変動という人類共通の課題解決に貢献するという明確な「パーパス」を掲げ、それを言葉だけでなく具体的な行動で示すこと。

  • SBTi認定のネットゼロ目標:科学的根拠に基づく野心的な削減目標を設定し、その移行計画を透明性高く開示する。
  • 質の高いカーボンクレジットの活用:自社の削減努力を最大限行った上で、残余排出量を質の高い除去クレジットで中和する。

【未来の仕事】「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」は、日本の、産業と、雇用を、どう、変えるか?

はじめに:危機を「成長の、エンジン」へと、転換する、国家戦略

「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」。

この、言葉を、近年、日本の、ニュースで、頻繁に、耳にするように、なりました。

これは、単なる、環境対策の、スローガンでは、ありません。

気候変動という、深刻な「危機」を、逆手にとって、それを、日本の、新しい「産業競争力の、強化」と「経済成長の、エンジン」へと、転換していこう、という、極めて、戦略的な、国家ビジョンです。

政府は、今後10年間で、150兆円を、超える、官民の、GX投資を、実現する、という、野心的な、目標を、掲げています。

この、巨大な、産業構造の、転換は、日本の「仕事」の、あり方を、根底から、変え、新しい、大量の「雇用」を、生み出す、可能性を、秘めています。

今回は、この、GXが、日本の、産業と、雇用に、もたらす、未来について、考えてみましょう。

GXが、注力する、主要な「産業分野」

政府の「GX実現に向けた基本方針」などでは、特に、以下の分野での、集中的な、投資と、技術開発が、掲げられています。

  • 徹底した、省エネルギーの、推進:日本の、優れた、省エネ技術を、さらに、磨き上げ、産業部門や、家庭部門の、エネルギー効率を、極限まで、高める。
  • 再生可能エネルギーの、主力電源化:洋上風力発電を、中心に、太陽光、地熱といった、国産の、クリーンエネルギーの、導入を、最大限、加速させる。
  • 水素・アンモニアの、社会実装:発電や、輸送、産業分野で、次世代燃料である、水素や、アンモニアを、活用するための、サプライチェーンを、構築する。
  • 自動車産業の、電動化:電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の、開発・普及を、強力に、推進する。
  • 蓄電池産業の、育成:EVや、電力網に、不可欠な、高性能な「蓄電池」の、国内での、製造基盤を、確立し、国際競争力を、高める。
  • 炭素除去(ネガティブエミッション)技術:DAC(直接空気回収)や、バイオマスCCS(二酸化炭素回収・貯留)といった、CO2を、除去する、革新的な、技術の、研究開発と、実用化。
  • 循環型経済(サーキュラーエコノミー)への、移行:資源の、リサイクルや、代替素材の、開発を、進める。

生まれる「新しい仕事」、求められる「新しいスキル」

この、産業の、大転換は、これまでの、仕事を、奪う、側面も、ありますが、それ以上に、多くの、新しい「グリーン・ジョブ」を、創出します。

需要が、高まる職種の例

  • 技術者・研究者:再エネ、蓄電池、水素、炭素除去といった、GX関連技術の、研究開発、設計、製造、保守管理を、担う、エンジニアや、科学者。
  • デジタル人材:スマートグリッドや、VPPを、制御する、ITエンジニア、エネルギー需要を、予測する、データサイエンティスト。
  • 金融・ビジネスプロフェッショナル:GX分野の、プロジェクトに、資金を、供給する、サステナブル・ファイナンスの、専門家、企業の、GX戦略を、支援する、コンサルタント。
  • 現場の、技能労働者:洋上風力発電所を、建設・維持する、作業員、住宅の、断熱改修を、行う、建設技能者、EVの、整備士。

求められる、スキルの変化

同時に、既存の、職業においても、新しい「スキル」が、求められるようになります。

例えば、自動車の、整備士は、エンジンの、知識だけでなく、バッテリーや、電気回路の、知識が、必要になります。

金融アナリストは、企業の、財務諸表だけでなく、その、気候変動リスクや、移行計画を、読み解く、能力が、求められます。

全ての、働く人にとって、気候変動や、サステナビリティに関する、基本的な、リテラシーを、身につけ、自らの、スキルを、アップデートしていく「リスキリング(学び直し)」が、不可欠な、時代となるのです。…

【事例研究】プロジェクトの成功と失敗、その分かれ道はどこにある?

はじめに:光と影から学ぶ、本物の価値

カーボンクレジット市場には、途上国の貧困を救い、豊かな自然を再生させる、数多くの素晴らしい「成功事例」が存在します。

しかしその一方で、計画がずさんだったり、地域住民との対立を招いたりして、期待された成果を上げられなかった「失敗事例」も、残念ながら存在します。

今回は、具体的な(架空の)成功事例と失敗事例を比較研究することで、プロジェクトの価値を左右する、本質的な要因はどこにあるのかを探ります。

光と影、その両方を知ることで、あなたのプロジェクト選定眼は、より確かなものになるはずです。

【成功事例】A国の「持続可能なアグロフォレストリー」プロジェクト

  • 概要:かつては違法な焼畑農業で劣化していた土地で、地域住民と協力し、カカオやコーヒーといった換金作物を、現地の樹木と組み合わせて育てる「アグロフォレストリー(森林農業)」を導入。
  • 成功の要因

    1. 地域住民が「主役」:プロジェクト開発者は、外部から一方的にルールを押し付けるのではなく、何ヶ月もかけて住民と対話し、彼らの伝統的な知識を尊重しながら、新しい農法を一緒に作り上げていきました。

    プロジェクトのオーナーシップ(当事者意識)が、住民の間に芽生えました。

    2. 短期・長期の収入源を確保:クレジット販売による収益だけでなく、数年で収穫できるカカオやコーヒーが、住民の安定した現金収入となりました。

    「森を守ることが、自分たちの生活を豊かにする」という実感が、持続的な活動の基盤となりました。

    3. 透明性の高い情報公開:プロジェクトの進捗や、収益の分配方法は、定期的に住民に公開され、誰もがアクセスできる村の掲示板にも貼り出されました。

    これにより、開発者と住民の間に、強い信頼関係が築かれました。

【失敗事例】B国の「大規模植林」プロジェクト

  • 概要:外国資本が、広大な土地を借り上げ、成長の早い外来種の樹木を、大規模かつ均一に植林するプロジェクト。

    短期間で多くのCO2を吸収できる、と謳っていました。

  • 失敗の要因

    1. 地域住民の「不在」:開発者は、政府とのトップダウンの合意だけでプロジェクトを進め、その土地を昔から利用してきた地域住民の声をほとんど聞きませんでした。

    住民は、自分たちの生活の場を奪われた、と感じ、プロジェクトに非協力的な姿勢をとるようになりました。

    2. 生態系への無配慮:その土地の生態系に合わない外来種を、単一的に植林したため、土壌が乾燥し、在来の昆虫や鳥たちが姿を消してしまいました。

    生物多様性が損なわれ、数年後には、病虫害の発生で、多くの木が枯れてしまいました。

    3. 短期的な利益の追求:開発者の目的は、あくまで「早く、安く」クレジットを生成し、販売することでした。

    プロジェクトの長期的な持続可能性や、地域社会への貢献といった視点が、決定的に欠けていました。

心理学で読み解く「なぜ人はカーボンオフセットをするのか?」

はじめに:あなたの「貢献したい」の裏側にあるもの

あなたは、なぜカーボンクレジットに興味を持ったのでしょうか?

「地球環境のため」という答えが、まず思い浮かぶかもしれません。

しかし、私たちの行動の裏側には、より複雑で、人間的な心理が隠されています。

今回は、行動経済学や心理学の視点から、「なぜ人はカーボンオフセットをするのか?」その動機を読み解いていきます。

自分や他人の心を理解すれば、この活動をより多くの人に広めるヒントが見つかるかもしれません。

人を動かす5つの心理的トリガー

1. 罪悪感の軽減 (Guilt Reduction)

最も分かりやすい動機の一つです。

飛行機に乗ったり、好きなだけエアコンを使ったりすることに対して、私たちは無意識のうちに、環境に対する「罪悪感」を感じています。

カーボン・オフセットは、この罪悪感を、比較的簡単な「お金を払う」という行為で和らげ、心理的な負担を軽減してくれる効果があります。

「自分は環境破壊に加担しているだけではない、ちゃんと埋め合わせもしている」という感覚が、心の平穏をもたらすのです。

2. 自己イメージの向上 (Self-Image Enhancement)

人は誰でも、「自分は良い人間でありたい」と思っています。

カーボン・オフセットを実践することは、「私は環境問題に関心があり、責任ある行動をとる、倫理的な人間だ」という、ポジティブな自己イメージを強化してくれます。

オフセットの証明書をSNSでシェアする行為などは、この心理の現れと言えるでしょう。

これは、自己満足と批判されることもありますが、ポジティブな行動を継続させるための、重要な動機付けの一つです。

3. 社会的シグナリング (Social Signaling)

人間は社会的な生き物であり、自分が特定の集団に属していることを、周囲に示したいという欲求を持っています。

カーボン・オフセットは、「私は、サステナビリティやSDGsに関心のある、先進的なコミュニティの一員です」ということを、他者に示すための「シグナル」として機能します。

環境意識の高い友人グループの中で、自分も同じ行動をとることで、仲間意識や帰属意識を高めることができます。

4. コントロール感の獲得 (Sense of Control)

気候変動は、あまりにも巨大で、複雑な問題です。

そのため、多くの人は「自分一人が何かをしても、どうにもならない」という無力感を抱きがちです。

しかし、カーボン・オフセットは、「自分の排出量を計算し、その分をクレジットで相殺する」という、具体的で、完結したアクションです。

これにより、巨大な問題に対して、自分自身でコントロールできている、という感覚(自己効力感)を得ることができます。

このコントロール感が、無力感を乗り越え、次なるアクションへの意欲を引き出すのです。…

【先住民族の権利】REDD+プロジェクトにおける「FPIC」の重要性

はじめに:森の「守り人」への、敬意を忘れていないか?

世界の森林、特に、熱帯雨林の、広大なエリアは、太古の昔から、そこに暮らし、独自の文化と、深い知恵を、育んできた、「先住民族」や、「地域コミュニティ」の、生活の場です。

彼らこそ、森を、最もよく知り、持続可能な形で、利用し、守ってきた、本来の「守り人(ガーディアン)」です。

しかし、時に、外部の人間が、良かれと思って進める、大規模な森林保護(REDD+)プロジェクトが、かえって、彼らの権利を、脅かしてしまう、という、悲しい現実が、起こり得ます。

そうした事態を、防ぐために、国際社会が、最も重要な原則として、掲げているのが、「FPIC(エフピック)」という、考え方です。

今回は、この、プロジェクトの倫理性を、根底から支える、FPICの重要性について、学びましょう。

FPICとは、何か?

FPICとは、以下の4つの言葉の、頭文字をとったものです。

  • Free(自由な):いかなる、強制、脅迫、操作も、受けることなく、自由な雰囲気の中で、意思決定が、行われること。
  • Prior(事前の):プロジェクトの計画が、最終的に決定され、活動が開始される、十分「前に」、情報提供と、協議が、開始されること。
  • Informed(十分な情報に基づく):プロジェクトの、潜在的な、プラスとマイナスの両方の影響について、彼らが、理解できる言葉(現地の言語)で、透明性高く、客観的な情報が、十分に、提供されること。
  • Consent(同意):そして、最終的に、そのプロジェクトを、受け入れるか、拒否するかを、コミュニティ自身が、主体的に、決定する権利。

    「Consent」は、単なる「Consultation(協議)」よりも、はるかに強い、拘束力を持つ、概念です。

つまり、FPICとは、「プロジェクトが、先住民族や、地域コミュニティの、土地、資源、そして文化に、影響を与える可能性がある場合、彼らから、自由で、事前の、十分な情報に基づいた『同意』を、得なければならない」という、国際的な人権の原則です。

なぜ、FPICは、これほど重要ななのか?

FPICを、遵守することは、プロジェクトの、倫理的な正当性を、担保するだけでなく、その「成功」と「持続可能性」にとっても、不可欠です。

  • 紛争の予防:FPICのプロセスを、丁寧に、踏むことで、プロジェクト開発者と、地域コミュニティとの間に、相互の信頼関係が、醸成されます。

    これにより、将来、起こり得たかもしれない、深刻な社会的対立や、紛争を、未然に防ぐことができます。

  • プロジェクトの質の向上:地域コミュニティは、その土地の、生態系や、社会慣習に関する、世代を超えて、受け継がれてきた、豊かな「伝統的知識」を持っています。

    FPICの対話プロセスを通じて、その貴重な知識が、プロジェクトの設計や、運営に、活かされ、プロジェクトの質を、より高く、効果的なものにします。

  • リスクの低減:地域コミュニティが、プロジェクトの「当事者」となり、積極的に、森林の監視や、管理に参加してくれること。

    それは、違法伐採や、火災といった、プロジェクトの「永続性」を脅かすリスクを、低減させる、最も効果的な、方法の一つです。

投資家として、何を確認すべきか?

質の高い認証基準である、「Gold Standard」や、Verraの「CCB Standards」は、このFPICのプロセスが、適切に、実施されていることを、認証の、必須要件としています。

私たちが、プロジェクトを選ぶ際には、プラットフォームの概要説明だけでなく、もし可能であれば、PDD(プロジェクト設計書)の、ステークホルダー協議のセクションに、目を通してみましょう。

「いつ、どこで、誰が、どのような方法で、協議を行い、どのような意見が出て、それが、どう計画に反映されたのか」。

その記述の、具体性と、丁寧さに、そのプロジェクトが、地域コミュニティに、どれだけ、真摯に、向き合っているか、その「姿勢」が、現れます。…

【未来のエネルギー】「地熱発電」は、日本の、エネルギー問題を、解決する、救世主と、なるか?

はじめに:地球の、内なる「熱」を、エネルギーに

日本は、世界有数の「火山国」です。

その、足元には、地球の、核から、伝わる、膨大な「地熱エネルギー」が、眠っています。

この、国産の、クリーンな、エネルギー資源を、活用する「地熱発電」

太陽光や、風力のように、天候に、左右されず、24時間、365日、安定的に、電力を、供給できる「ベースロード電源」として、日本の、エネルギー安全保障と、脱炭素化の、両方を、実現する、切り札として、大きな期待が、寄せられています。

今回は、この、地熱発電の、仕組みと、その、大きな可能性、そして、普及に向けた、課題について、解説します。

地熱発電の、仕組み

地熱発電は、地下深くにある「地熱貯留層」と呼ばれる、高温の、蒸気や、熱水の、層を、利用します。

  1. 掘削:まず、地下、数千メートルまで、井戸(生産井)を、掘り、地熱貯留層に、到達させます。
  2. 蒸気の、取り出し:地熱貯留層からは、マグマの熱で、熱せられた、200〜300℃にも、達する、高温・高圧の、蒸気や、熱水が、噴出します。
  3. タービンの、回転:この、蒸気の力で、タービンを、勢いよく、回転させ、その、回転エネルギーを、使って、発電機を、回し、電気を、作ります。

    (基本的な、仕組みは、火力発電と、同じですが、燃料を、燃やす、必要が、ありません。

  4. 水の、還元:タービンを、回し終えた、蒸気や、熱水は、冷却され、再び、水に戻した後、別の井戸(還元井)から、地下の、地熱貯留層へと、戻されます。

    これにより、資源を、枯渇させることなく、持続的に、利用することが、可能です。

地熱発電の、メリット

  • 純国産の、安定した、エネルギー:燃料を、海外からの、輸入に、頼る、必要がなく、エネルギーの、安定供給と、安全保障に、大きく、貢献します。

    また、天候や、昼夜に、関係なく、24時間、一定の、出力で、発電できるため、電力系統を、安定させる「ベースロード電源」として、最適です。

  • CO2を、排出しない、クリーンエネルギー:発電時に、CO2を、ほとんど、排出しません。
  • 小さな、設置面積:発電所の、設置面積が、比較的小さく、太陽光発電のように、広大な、土地を、必要としません。
  • 地域への、多角的な、貢献:発電に、使った後の、温水を、農業用ハウスの、暖房や、魚の養殖、あるいは、地域の、温泉施設や、暖房に、利用するなど、熱の「多段階利用」によって、地域の、産業振興や、雇用創出に、貢献できる、大きな、ポテンシャルが、あります。

普及への「課題」

多くの、メリットを持つ、地熱発電ですが、その、普及は、なかなか、進んでいません。

その、背景には、いくつかの、大きな、課題が、あります。

  • 高い、初期コストと、開発リスク:地下深くの、地熱貯留層を、見つけ出し、そこに、正確に、井戸を、掘削するには、高度な、調査技術と、多額の、初期投資が、必要です。

    また、時間と、コストを、かけて、掘削しても、期待したほどの、蒸気が、得られない、という「開発リスク」が、常に、伴います。

  • 長い、開発期間:調査から、環境アセスメント、そして、建設まで、発電所の、運転開始までには、10年以上という、非常に、長い時間が、かかります。
  • 国立公園・温泉事業者との、調整