【企業の適応戦略】「TCFD」から「TNFD」へ。気候と、自然の、リスク開示は、どう、連携するのか?

はじめに:二つの「危機」、その、根は、同じ

企業の、サステナビリティ情報開示において、今や、グローバル・スタンダードとなった、気候関連の、枠組み「TCFD」。

そして、その、TCFDの、成功を、モデルとして、今、急速に、その、重要性が、認識されつつある、自然関連の、枠組み「TNFD」。

「気候変動」と「自然資本の損失」。

この、人類が、直面する、二つの、巨大な危機は、一見、別々の、問題のように、見えるかもしれません。

しかし、その、根は、深く、繋がっており、両者は、互いに、影響を、及ぼし合う、分かちがたい、関係に、あります。

今回は、企業が、この、二つの、フレームワークに、どう、統合的に、取り組み、気候と、自然の、両方の、課題に、対応していくべきか、その、連携の、あり方について、考えます。

TCFDと、TNFDの、共通点と、相違点

まず、両者の、関係性を、理解するために、その、共通点と、相違点を、整理しましょう。

共通点

  • 同じ、開示フレームワーク:TNFDは、意図的に、TCFDの、構造を、踏襲しています。

    「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という、4つの、開示の柱は、両者で、共通です。

    これにより、企業は、TCFDで、培った、経験や、社内体制を、TNFDへの、対応にも、活かすことができます。

  • 同じ、思考プロセス:どちらも、企業に対して、リスクと、機会の、特定、シナリオ分析の、実施、そして、それらを、経営戦略と、財務計画に、統合することを、求めています。

相違点

  • 課題の、複雑性:気候変動は、その、主要な指標が「CO2排出量(トン)」という、グローバルに、標準化された、単一の、指標で、ある程度、捉えることができます。

    しかし、自然資本(生物多様性、水、土壌など)は、その、価値が、非常に「場所固有的(Location-specific)」であり、多様で、複雑です。

    アマゾンの、森林の価値と、日本の、里山の価値は、単純に、比較できません。

    そのため、TNFDでは、TCFD以上に、事業活動の「場所」を、特定することの、重要性が、強調されます(LEAPアプローチの「L」)。

なぜ「統合的な、アプローチ」が、必要なのか?

気候と、自然は、互いに、影響を、及ぼし合う、一つの、結合した「システム」です。

したがって、その、リスクと、機会への、対応もまた、統合的に、行われる、必要が、あります。

ケース1:対策が、互いに、プラスに、働く場合(シナジー)

これが、NCS(自然を基盤とした解決策)の、考え方です。

  • :企業が、マングローブ林の、再生プロジェクトを、支援する。

    気候への、便益(TCFD):マングローブ林が、CO2を、吸収し、気候変動の「緩和」に、貢献する。

    また、自然の、防波堤として、高潮などの、物理的リスクから、沿岸の、工場を、守り、「適応」にも、貢献する。

    自然への、便益(TNFD):マングローブ林という、豊かな、生態系が、回復し、地域の「生物多様性」が、向上する。

    また、漁業資源が、豊かになり、地域社会にも、貢献する。

ケース2:対策が、互いに、マイナスに、働く場合(トレードオフ)

気候変動対策が、かえって、自然資本を、損なってしまう、という、意図せぬ、負の、影響も、あり得ます。

【未来の金融】「サステナビリティ・リンク・ローン」は、目標達成で金利が変わる融資

はじめに:企業の「本気度」が金利を左右する

これまで、私たちは、環境プロジェクトに資金使途を限定した「グリーン・ローン」について学んできました。

しかし、近年、企業のサステナビリティへの取り組みをさらに強力に後押しする新しいタイプの融資が急速に普及しています。

それが、「サステナビリティ・リンク・ローン(Sustainability-Linked Loan / SLL)」です。

このローンは、資金使途を限定しない通常の融資でありながら、借り手企業が設定したサステナビリティに関する目標の達成度合いによって、金利が変動するというユニークな仕組みを持っています。

今回は、このSLLが企業の脱炭素化への「本気度」をどう引き出し、金融市場をどう変えるのか、その特徴とメリットについて解説します。

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは?

SLLは、借り手企業があらかじめ設定したサステナビリティに関する目標(KPI – Key Performance Indicator)の達成状況に応じて、ローンの金利が引き下げられたり、引き上げられたりするというインセンティブ構造を持つ融資です。

SLLの主な特徴

  1. 資金使途は限定されない:グリーン・ローンとは異なり、SLLで調達した資金は企業の一般的な事業活動に自由に使うことができます。
  2. サステナビリティ目標(SPT)との連動:借り手企業は、自社の事業戦略と整合した野心的なサステナビリティ目標(SPT – Sustainability Performance Target)を設定します。

    このSPTの達成度合いが金利に連動します。

  3. 外部レビューの推奨:SPTの設定の妥当性や進捗状況について、第三者機関による外部レビュー(セカンドパーティ・オピニオン)を受けることが推奨されます。

    これにより、SLLの信頼性と透明性が担保されます。

  4. レポーティングの義務:借り手企業は、SPTの進捗状況について定期的に貸し手である金融機関に報告する義務を負います。

SLLの対象となるサステナビリティ目標(SPT)の例

SPTは、企業の事業内容や業界特性に応じて様々ですが、気候変動関連の目標が多く設定されます。

  • 温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標

【企業の適応戦略】「気候変動と人材戦略」:優秀な人材を惹きつけ、定着させるには?

はじめに:Z世代は会社を「選ぶ」

「給料が高いから」。

「安定しているから」。

かつて、多くの人が会社を選ぶ主要な理由だったこれらの要素は、今、特にZ世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)を中心とする若い世代にとって、もはや絶対的なものではありません。

彼らが会社を選ぶ最も重要な基準の一つ。

それは、その会社が社会に対してどのような「パーパス(存在意義)」を持っているのか、そして気候変動という人類共通の課題に対してどれだけ「本気」で取り組んでいるのかです。

気候変動は、もはや企業の、人材戦略において無視できない重要な要素となっています。

今回は、企業が優秀な人材を惹きつけ、定着させるために、気候変動にどう向き合うべきか、その戦略について解説します。

気候変動が人材戦略に与える3つの影響

1. 採用競争力の低下

気候変動対策に消極的な企業は、優秀な人材から選ばれなくなります。

  • Z世代の価値観:彼らは生まれた時から気候変動の危機を知っており、社会課題への意識が非常に高いです。

    自分の働く会社が地球環境に負の影響を与えていると知れば、そこで働くことに強い抵抗を感じます。

  • 「クライメート・クイッティング」の増加:すでに、入社している従業員が、自社の気候変動への姿勢に失望し、「静かな退職(Quiet Quitting)」や、実際に退職してしまうという現象が起きています。

2. 従業員のエンゲージメントの低下

気候変動への取り組みが不十分な企業では、従業員の仕事への熱意や貢献意欲が低下します。

  • パーパスの欠如:自分の仕事が社会に貢献しているという実感が持てず、仕事へのモチベーションが低下します。
  • 倫理的ジレンマ:環境に配慮したいという個人の価値観と、会社の事業活動との間で倫理的なジレンマを抱え、ストレスを感じます。

3. スキルギャップの拡大

脱炭素化への移行は、新しい技術やビジネスモデルを生み出し、それに、対応できる新しいスキルを必要とします。

  • リスキリングの遅れ:企業が従業員のリスキリング(学び直し)を怠れば、必要なスキルを持つ人材が不足し、事業の変革が遅れます。

気候変動を人材戦略の「武器」にする3つの戦略

1. 野心的な「パーパス」を掲げ、行動する

単なる利益追求だけでなく、気候変動という人類共通の課題解決に貢献するという明確な「パーパス」を掲げ、それを言葉だけでなく具体的な行動で示すこと。

  • SBTi認定のネットゼロ目標:科学的根拠に基づく野心的な削減目標を設定し、その移行計画を透明性高く開示する。
  • 質の高いカーボンクレジットの活用:自社の削減努力を最大限行った上で、残余排出量を質の高い除去クレジットで中和する。