【上級者向け】カーボンクレジットの専門用語集 Part 2

はじめに:さらに深く、市場の「言語」をマスターする

以前、カーボンクレジットの「基礎用語」を学びました。

今回は、その次のステップへ進みたい、意欲的なあなたのために、より専門的で、一歩踏み込んだ「上級用語」を解説します。

これらの言葉を理解できれば、専門的なレポートや、海外のニュース記事を読む際の解像度が、飛躍的に向上するはずです。

市場のプロフェッショナルたちが使う「言語」を、あなたもマスターしてみませんか。

上級専門用語10選

1. ベースラインシナリオ (Baseline Scenario)
方法論において、CO2削減量を計算する際の「基準」となる、「もし、プロジェクトがなかった場合に、排出されたであろうCO2の量」を示す、未来予測のシナリオ。

この設定の妥当性が、クレジットの品質を大きく左右します。

2. リーケージ (Leakage / 漏出)
プロジェクトを実施した結果、その影響で、プロジェクトの範囲外の場所で、かえってCO2排出量が増加してしまう現象。

例えば、ある森林の伐採を禁止したら、その分、隣の森林が伐採されてしまった、というケース。

信頼できる方法論では、このリーケージ分を、削減量から差し引くことが求められます。

3. 永続性 (Permanence)
特に、森林プロジェクトなどで、貯留した炭素が、将来にわたって、大気中に再放出されることなく、永続的に固定され続けるか、という点。

火災や、違法伐採、病虫害など、永続性を脅かすリスクを、どう管理するかが重要になります。

4. バッファープール (Buffer Pool)
永続性リスクに備えるための「保険」の仕組み。

プロジェクトが生み出したクレジットの一定割合(例:10〜20%)を、認証機関が管理する共通の「バッファープール」に預けておきます。

もし、そのプロジェクトの森が火災で焼失してしまった場合、このプールから、同量のクレジットが取り崩され、損失が補填されます。

5. ネスティング (Nesting)
個別のプロジェクト(例:ある村の植林活動)を、より大きな行政単位(州や国)のREDD+プログラムの中に「入れ子(Nest)」のように、組み込んでいくアプローチ。

これにより、プロジェクト単位と、国単位での、CO2削減量のダブルカウント(二重計上)を防ぎ、整合性を取ることができます。

6. 対応調整 (Corresponding Adjustment)
パリ協定第6条に基づく、クレジットの国際取引において、二重計上を防ぐための、国家間の会計上の「調整」手続き。

クレジットを輸出した国は、自国のCO2削減量として、その分をカウントできなくなります。

この調整が行われたクレジットは、高品質であると見なされます。

7. 炭素除去のCDR (Carbon Dioxide Removal)
「炭素除去」を指す、国際的な専門用語。

特に、技術的な除去(DACなど)と、自然ベースの除去(植林など)の両方を含む、広い概念として使われます。

8. トン年会計 (Ton-Year Accounting)
炭素貯留の「時間的な価値」を評価するための、会計アプローチの一つ。

「1トンの炭素を、1年間貯留すること」を基準単位とし、より長期間、炭素を貯留するプロジェクトを、より高く評価しようという考え方。

まだ議論の段階ですが、永続性の問題を、より精緻に評価する方法として注目されています。

9. 先行購入契約 (Advance Market Commitment / Offtake Agreement)
DACなどの、まだ開発段階にある炭素除去プロジェクトに対して、企業などが、将来、そのプロジェクトが生み出すクレジットを、あらかじめ決められた価格と数量で、購入することを「約束」する契約。

これにより、開発者は、将来の収入を見込んで、巨額の初期投資を行うことができます。

10. SBTi (Science Based Targets initiative)
企業が設定するCO2削減目標が、パリ協定の目標と整合した、科学的な根拠に基づいているかどうかを検証し、認定する、国際的なイニシアチブ。

SBTiは、企業の安易なオフセット依存を戒めており、その動向は、企業のクレジット需要に大きな影響を与えます。

まとめ:知識は、力なり

これらの上級用語は、一見すると、複雑で、とっつきにくいかもしれません。

しかし、その一つ一つの言葉の背景には、市場を、より信頼性が高く、効果的なものにしようとする、専門家たちの、長年の議論と、知的な格闘の歴史が込められています。

これらの概念を理解することは、あなたが、単なる市場参加者から、市場の動向や、その本質的な価値を、より深く、批判的に読み解くことができる、「インサイダー」へと進化するための一歩となるでしょう。

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