はじめに:100年後も、その森は、そこにありますか?
特に、植林や、森林保全(REDD+)といった、自然をベースにしたカーボンクレジットプロジェクトに投資する際、私たちが、必ず考えなければならない、重要なリスクがあります。
それが、「永続性(Permanence)」のリスクです。
つまり、「プロジェクトによって吸収・貯留されたはずの炭素が、将来、予期せぬ出来事によって、再び、大気中に放出されてしまうのではないか?
」というリスクです。
例えば、植林した森が、数十年後に、大規模な山火事で、焼失してしまったら…?
今回は、この「永続性」のリスクと、市場が、そのリスクに、どう備えているのか、その仕組みについて、解説します。
永続性を脅かす、主なリスク
自然ベースのプロジェクトが、長期にわたって炭素を貯留し続けることを、脅かす可能性のある、主なリスクには、以下のようなものがあります。
- 自然災害:山火事、ハリケーン、干ばつ、病虫害の大量発生など。
気候変動が、皮肉にも、これらのリスクを、さらに高めています。
- 人為的な要因:違法な伐採や、土地利用の転換(例:森林が、農地や、鉱山に変えられてしまう)。
- ガバナンス・リスク:プロジェクトを管理する、国や、地域の、政治が不安定化したり、紛争が発生したりすることで、プロジェクトの継続が、困難になるリスク。
これらのリスクにより、貯留した炭素が、意図せず、大気中に放出されてしまうことを、「非自発的なリバーサル(Non-permanence / Reversal)」と呼びます。
リスクへの備え:バッファープールという「保険」
では、市場は、この避けがたいリスクに対して、どのように備えているのでしょうか。
その、中心的な仕組みが、認証機関(Verraなど)が管理する、「バッファープール(Buffer Pool)」という、共同の保険制度です。
- 仕組み:
1. まず、個々のプロジェクトは、そのプロジェクトが抱える「永続性リスク」の大きさを、認証機関が定めたツールを使って、評価・スコアリングされます。
(例:火災のリスクが高い地域か、政治的に安定している国か、など)
2. プロジェクトは、そのリスク評価に応じて、発行されたクレジットの、一定割合(例えば、リスクが低いプロジェクトは10%、高いプロジェクトは30%など)を、共通の「バッファープール」に、保険料のように、預け入れることが義務付けられます。
この、プールに預けられたクレジットは、市場で販売することはできません。
3. もし、あるプロジェクト(A)で、大規模な山火事が起き、貯留していた炭素が、全て失われてしまったとします。
その場合、認証機関は、このバッファープールから、失われた量と、同量のクレジットを取り崩し、「無効化」します。
- 効果:
この仕組みにより、たとえ、個別のプロジェクトが失敗し、炭素が放出されてしまったとしても、市場全体としては、その損失が、プールによって補填されるため、発行されたクレジット全体の、環境に対する価値(環境健全性)は、維持されることになります。
まとめ:リスクをゼロにはできない。しかし、管理することはできる
自然が相手である以上、永続性のリスクを、完全にゼロにすることは、不可能です。
しかし、バッファープールのような、賢明なリスク管理の仕組みを、あらかじめ、制度に組み込んでおくことで、市場は、そのリスクを、コントロールし、乗り越えようとしています。
私たち個人投資家が、プロジェクトを選ぶ際にも、この「永続性」という視点を持つことは、非常に重要です。
「このプロジェクトは、どのような永続性リスクを抱えているだろうか?
」。
「そのリスクに対して、どのような管理計画を立てているだろうか?
」。
PDD(プロジェクト設計書)の、リスク評価のセクションを読んでみること。
それは、プロジェクトの「甘い夢」だけでなく、その「厳しい現実」にも、目を向ける、成熟した投資家への、第一歩と言えるでしょう。