はじめに:森の「守り人」への、敬意を忘れていないか?
世界の森林、特に、熱帯雨林の、広大なエリアは、太古の昔から、そこに暮らし、独自の文化と、深い知恵を、育んできた、「先住民族」や、「地域コミュニティ」の、生活の場です。
彼らこそ、森を、最もよく知り、持続可能な形で、利用し、守ってきた、本来の「守り人(ガーディアン)」です。
しかし、時に、外部の人間が、良かれと思って進める、大規模な森林保護(REDD+)プロジェクトが、かえって、彼らの権利を、脅かしてしまう、という、悲しい現実が、起こり得ます。
そうした事態を、防ぐために、国際社会が、最も重要な原則として、掲げているのが、「FPIC(エフピック)」という、考え方です。
今回は、この、プロジェクトの倫理性を、根底から支える、FPICの重要性について、学びましょう。
FPICとは、何か?
FPICとは、以下の4つの言葉の、頭文字をとったものです。
- Free(自由な):いかなる、強制、脅迫、操作も、受けることなく、自由な雰囲気の中で、意思決定が、行われること。
- Prior(事前の):プロジェクトの計画が、最終的に決定され、活動が開始される、十分「前に」、情報提供と、協議が、開始されること。
- Informed(十分な情報に基づく):プロジェクトの、潜在的な、プラスとマイナスの両方の影響について、彼らが、理解できる言葉(現地の言語)で、透明性高く、客観的な情報が、十分に、提供されること。
- Consent(同意):そして、最終的に、そのプロジェクトを、受け入れるか、拒否するかを、コミュニティ自身が、主体的に、決定する権利。
「Consent」は、単なる「Consultation(協議)」よりも、はるかに強い、拘束力を持つ、概念です。
つまり、FPICとは、「プロジェクトが、先住民族や、地域コミュニティの、土地、資源、そして文化に、影響を与える可能性がある場合、彼らから、自由で、事前の、十分な情報に基づいた『同意』を、得なければならない」という、国際的な人権の原則です。
なぜ、FPICは、これほど重要ななのか?
FPICを、遵守することは、プロジェクトの、倫理的な正当性を、担保するだけでなく、その「成功」と「持続可能性」にとっても、不可欠です。
- 紛争の予防:FPICのプロセスを、丁寧に、踏むことで、プロジェクト開発者と、地域コミュニティとの間に、相互の信頼関係が、醸成されます。
これにより、将来、起こり得たかもしれない、深刻な社会的対立や、紛争を、未然に防ぐことができます。
- プロジェクトの質の向上:地域コミュニティは、その土地の、生態系や、社会慣習に関する、世代を超えて、受け継がれてきた、豊かな「伝統的知識」を持っています。
FPICの対話プロセスを通じて、その貴重な知識が、プロジェクトの設計や、運営に、活かされ、プロジェクトの質を、より高く、効果的なものにします。
- リスクの低減:地域コミュニティが、プロジェクトの「当事者」となり、積極的に、森林の監視や、管理に参加してくれること。
それは、違法伐採や、火災といった、プロジェクトの「永続性」を脅かすリスクを、低減させる、最も効果的な、方法の一つです。
投資家として、何を確認すべきか?
質の高い認証基準である、「Gold Standard」や、Verraの「CCB Standards」は、このFPICのプロセスが、適切に、実施されていることを、認証の、必須要件としています。
私たちが、プロジェクトを選ぶ際には、プラットフォームの概要説明だけでなく、もし可能であれば、PDD(プロジェクト設計書)の、ステークホルダー協議のセクションに、目を通してみましょう。
「いつ、どこで、誰が、どのような方法で、協議を行い、どのような意見が出て、それが、どう計画に反映されたのか」。
その記述の、具体性と、丁寧さに、そのプロジェクトが、地域コミュニティに、どれだけ、真摯に、向き合っているか、その「姿勢」が、現れます。
まとめ:敬意なくして、持続なし
森の、本当の価値は、そこに蓄えられた「炭素」の量だけで、測れるものではありません。
その森と共に生きてきた、人々の、文化、歴史、そして、未来への、想い。
その、目に見えない価値への「敬意」を、欠いたプロジェクトは、たとえ、短期的には、成功したように見えても、決して、真に、持続可能なものには、なり得ません。
FPICという、一見、回り道に見える、丁寧な対話のプロセスこそが、気候変動と、人権という、二つの課題に、同時に、誠実に応えるための、唯一の、正道なのです。