はじめに:傷を、自ら「治す」コンクリート
道路、橋、トンネル、ビル…。
私たちの、現代社会は「コンクリート」という、素材によって、支えられています。
しかし、コンクリートは、経年劣化によって、必ず「ひび割れ(クラック)」が、発生します。
その、小さな、ひび割れから、水や、塩分が、侵入し、内部の、鉄筋を、錆びさせ、構造物全体の、寿命を、縮めてしまう。
その、補修と、維持管理には、毎年、莫大な、コストが、かかっています。
もし、コンクリートが、まるで、生き物のように、自らの「傷(ひび割れ)」を、自動的に、塞ぎ、治癒することが、できたとしたら…?
その、夢のような、技術を、実現しようとするのが、「自己修復コンクリート(Self-healing Concrete)」の研究です。
今回は、この、バイオミミクリー(生物模倣技術)の、最前線について、探ります。
自己修復コンクリートの、主な、仕組み
現在、世界中で、様々な、アプローチの、自己修復コンクリートが、研究されていますが、特に、注目されているのが、「バクテリア」の力を、利用する、方法です。
- バクテリアと「エサ」を、仕込む:コンクリートを、練り混ぜる際に、特殊な、バクテリアの「胞子(休眠状態の、バクテリア)」と、その、バクテリアの「エサ」となる、栄養分(乳酸カルシウムなど)を、カプセルに、入れて、一緒に、混ぜ込みます。
- ひび割れの、発生と、バクテリアの「覚醒」:コンクリートに、ひび割れが、発生し、そこから、水が、侵入してくると、その水を、トリガーとして、休眠していた、バクテリアの胞子が「覚醒」し、活動を、開始します。
- バクテリアによる「治癒」:目覚めた、バクテリアは、同時に、カプセルから、放出された、栄養分を、食べ、代謝活動を、行います。
その、代謝の、副産物として、「炭酸カルシウム(石灰石)」を、生成します。
- ひび割れの、充填:この、バクテリアが、作り出した、炭酸カルシウムが、ひび割れの、隙間を、石のように、硬く、充填し、塞いでいきます。
まるで、人間が、ケガをした時に、かさぶたが、できて、傷が、治るのと、同じような、プロセスです。
自己修復コンクリートが、もたらす「メリット」
- インフラの、長寿命化と、維持管理コストの、削減:コンクリート構造物の、寿命が、大幅に、延び、ひび割れの、補修に、かかる、莫大な、コストと、手間を、削減できます。
- 安全性の、向上:人間が、気づかないような、微細な、ひび割れも、自動的に、修復されるため、構造物の、構造的な、健全性が、維持され、突然の、崩壊などの、リスクを、低減します。
- 環境負荷の、低減(CO2削減):
・補修材料の、削減:補修に、使う、セメントや、化学薬品の、使用量を、減らすことができます。
・構造物の、長寿命化:建物の、建て替えサイクルが、長くなることで、解体や、新設に伴う、大量のCO2排出を、抑制できます。
・セメント使用量の、削減:バクテリアが、生成する、炭酸カルシウムが、コンクリートの、強度を、高めるため、そもそも、製造時に、必要な、セメントの量を、減らせる、可能性も、あります。
(セメントの、生産は、世界のCO2排出量の、約8%を、占める、巨大な排出源です。
)
まとめ:自然の「叡智」に、学ぶ、未来の、ものづくり
自己修復コンクリートは、まだ、コストなどの、課題があり、本格的な、社会実装は、これからです。
しかし、その、根底にある、思想。
すなわち、自然界が、何億年もかけて、進化させてきた、驚くべき「自己治癒能力」や「循環の、仕組み」に、謙虚に、学び、それを、人間の、テクノロジーと、融合させていく、という、「バイオミミクリー」の、アプローチ。
それこそが、これからの、持続可能な、ものづくり、そして、社会インフラの、あり方を、考える上で、極めて、重要な、ヒントを、与えてくれます。
コンクリートという、無機質な、人工物が、まるで、生命を、宿したかのように、振る舞う。
その、SFのような、未来が、実現すれば、私たちの、都市は、より、安全で、レジリエント(強靭)で、そして、地球環境と、調和した、存在へと、進化していくことができるでしょう。