地政学リスクは市場にどう影響する?ウクライナ情勢から学ぶ

はじめに:遠い国の出来事が、あなたの資産を揺るがす

2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻。

この出来事は、世界中のエネルギー価格を高騰させ、株式市場を混乱させ、私たちの生活にも大きな影響を与えました。

このような、特定の地域における政治的・軍事的な緊張が、世界経済全体に悪影響を及ぼすリスクを「地政学リスク」と呼びます。

そして、このリスクは、カーボンクレジット市場にとっても決して無関係ではありません。

今回は、地政学リスクが市場に与える影響と、個人投資家がどう備えるべきかを考えます。

地政学リスクがカーボンクレジット市場に与える影響

影響1:エネルギー価格の高騰と、再エネへの注目

ウクライナ侵攻後、ロシアからの天然ガスの供給が不安定になった欧州では、エネルギー価格が記録的に高騰しました。

これにより、二つの動きが加速しました。

  • 短期的には、エネルギー危機を乗り切るために、石炭火力発電所の再稼働など、CO2排出量が増加する動きが見られました。

    これは、企業のオフセット需要を高め、クレジット価格を押し上げる要因になります。

  • 長期的には、特定の国からの化石燃料への依存から脱却し、自国で生産できる再生可能エネルギー(太陽光、風力など)への投資を加速させる動きが強まりました。

    これは、将来的に再生可能エネルギー関連のクレジットの価値を高める可能性があります。

影響2:プロジェクトの存続リスク

もし、カーボンクレジットを生み出しているプロジェクトが、紛争地域や政治的に不安定な国に存在していた場合、そのプロジェクト自体が物理的に破壊されたり、運営が困難になったりするリスクがあります。

  • 例えば、ウクライナ国内にあった森林保護プロジェクトや再エネプロジェクトは、侵攻によって大きな影響を受けました。
  • これにより、そのプロジェクトから発行されるはずだったクレジットの供給が停止し、市場価格に影響を与える可能性があります。

影響3:サプライチェーンの混乱とインフレ

地政学リスクは、世界的なサプライチェーン(供給網)を混乱させ、インフレ(物価上昇)を引き起こすことがあります。

景気が後退すれば、企業の生産活動が停滞し、CO2排出量が減少するため、クレジット需要は一時的に減少するかもしれません。

一方で、インフレヘッジ(資産価値の目減りを防ぐ)の手段として、金(ゴールド)などと共に、カーボンクレジットのような実物資産に関連する投資先が注目される可能性もあります。

個人投資家としての備え

では、私たち個人投資家は、予測困難な地政学リスクにどう備えれば良いのでしょうか。

  1. 分散投資を徹底する:これは、あらゆる投資における鉄則です。

    カーボンクレジット投資においても、特定の国や、特定のプロジェクトタイプに資産を集中させるのは危険です。

    地理的な分散:アジア、アフリカ、南米など、異なる地域のプロジェクトに分散させる。

    プロジェクトタイプの分散:森林保護、再生可能エネルギー、ブルーカーボンなど、異なる種類のプロジェクトに分散させる。

  2. プロジェクトの「場所」を意識する:投資を検討しているプロジェクトが、どの国にあるのか、その国の政治情勢は安定しているのか、といった点に、これまで以上に注意を払うことが重要になります。
  3. 長期的な視点を忘れない:地政学リスクによる市場の混乱は、しばしば短期的なものです。

    世界的な脱炭素化という、より大きなメガトレンドを信じ、短期的な価格変動に一喜一憂せず、冷静に長期的な視点を保つことが、最終的な成功に繋がります。

まとめ:世界は繋がっている。投資も、また然り。

地政学リスクは、カーボンクレジット市場の不確実性を高める要因です。

しかし、リスクを正しく理解し、分散投資という基本に忠実である限り、過度に恐れる必要はありません。

遠い国で起きている出来事が、自分の資産や、地球環境の未来と、どう繋がっているのか。

その繋がりを想像し、理解しようと努めること。

それこそが、グローバルな時代を生きる、賢明な投資家に求められる姿勢なのです。

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