はじめに:そのプロジェクト、本当に必要?
カーボンクレジットの世界に少し詳しくなると、必ず出会うのが「追加性(Additionality)」という専門用語です。
これは、一見難しそうに聞こえますが、クレジットが本物の価値を持つかどうかを判断するための、根幹となる非常に重要な概念です。
今回は、この「追加性」とは何かを、具体例を交えて分かりやすく解説します。
これを理解すれば、あなたはもう初心者ではありません。
「追加性」のシンプルな定義
追加性とは、一言でいうと、「もしカーボンクレジットの仕組み(=プロジェクトへの資金援助)がなかったとしても、そのCO2削減活動は行われていたか?
」という問いです。
- 答えが「No(行われなかった)」であれば、追加性があると言えます。
クレジットによる収入があるからこそ、その素晴らしいCO2削減活動が実現できた、ということになり、そのクレジットには本質的な価値があります。
- 答えが「Yes(いずれにせよ行われていた)」であれば、追加性がないと言えます。
その活動は、クレジットがなくても実施されたはずなので、クレジットを購入して支援する意味は薄れてしまいます。
追加性がない、と判断されるケース
具体的に、どのような場合に「追加性がない」と判断されるのでしょうか。
ケース1:法律で義務付けられている活動
例えば、ある国の法律で、工場に対して「特定の省エネ装置の設置」が義務付けられていたとします。
その工場が装置を設置してCO2を削減したとしても、それは法律に従っただけであり、クレジット収入がなくても行われたはずです。
したがって、この活動には追加性がありません。
ケース2:何もしなくても利益の出る事業
例えば、ある企業が、単純にコスト削減のために、エネルギー効率の非常に高い最新の機械を導入したとします。
この投資は、CO2削減を意図したものではなく、それ自体で十分に経済的なメリット(=儲け)があります。
このようなプロジェクトも、クレジット収入がなくても実施された可能性が高いため、追加性がないと判断されることがあります。
なぜ追加性は重要なのか?
もし追加性のないプロジェクトから生まれたクレジットが市場に溢れてしまうと、どうなるでしょうか。
私たちは、本来行われるはずだったCO2削減に対してお金を払うことになり、世界全体のCO2は、私たちが期待したほどには減りません。
それでは、カーボンクレジット市場全体の意味が失われてしまいます。
だからこそ、「Verra」や「Gold Standard」といった信頼できる認証機関は、プロジェクトを認証する際に、この「追加性」があるかどうかを非常に厳しく審査しているのです。
まとめ:本物の「変化」を生み出すために
私たちがカーボンクレジットを購入するのは、それによって世界にポジティブな「変化」を生み出したいからです。
「追加性」は、そのクレジットが本物の変化を生み出す力を持っているかどうかを測る、試金石と言えます。
認証機関が審査してくれているとは言え、この概念を知っておくことで、より深くプロジェクトの価値を理解し、自信を持って投資や貢献ができるようになるはずです。